ライバルは空の上
ACT2~1月23日·11:20 広島~
通常、客室乗務員他、機材(飛行機の事を指す)に乗り込む乗員(クルー)は、一日に2·3回を平均にして機材に搭乗、業務にあたる。例えば羽田~福岡、福岡~羽田の往復、羽田~新千歳、新千歳から関空(関西国際)というスケジュールを一日でこなしていく。私は羽田(東京国際)を拠点(通称ベースと呼ぶ。各クルーが在籍するセクションの活動拠点となる所)に客室乗務の仕事に就いている。
大手の航空会社のように、日本の津々浦々を網羅しない、国内の主要都市だけを請け負う我がサンセットエアーの強みとして、定時出発前10分プッシュバック(飛行機がボーディングブリッジを離れ、離陸準備に入る事)と、分け隔てなく搭乗客を受け持つのではなく、座席毎に受け持つ独自のシステムで運航している。例えば座席が左右2席ずつあるとすれば、左2席、右2席をを専門に受け持ち振り分けて業務に当たるという具合に、快適な空の旅と心地よく感じて頂ける為のおもてなし精神というのだろうか、各グレード毎に接客スタイルを持つ航空会社とは違う、異質な部分はあるのかもしれないが、私はそのシステムを採用するサンセットエアーに心惹かれ、航空業界の道に進んだのだ。

目的地に到着してから、搭乗口に立ち乗客を見送る際、『ありがとう』という声を掛けてくれる度に、この仕事をして良かったと思うし、励みになる。

新千歳から羽田から戻り、乗客の後ろ姿を見送りながら、私は左隣に立つ後輩の立花春香に声を掛けた。
「お疲れ様、春香ちゃん」
安堵の溜め息を吐きながら、彼女は笑みを浮かべ言葉を返す。
「藤沢さん……めちゃくちゃ緊張しました」
照れ笑いを浮かべる彼女を見て、私は言葉を並べ始める。
「プロの接客として、まだまだ勉強する事はあるけど、先ずは慣れることが先決ね」
「はい、頑張ります! 私、藤沢さんのようにプロに恥じないCAになります!」
初フライトを終えた後輩の声に笑みを浮かべて、私は彼女の右肩を軽く叩き言葉を返した。
「目標に向かって頑張ってね、私を追い抜く位の気持ちでね」
顔を上下に振り上げ頷く彼女を見ながら、私は照れくささを誤魔化すかの如く、声を掛け続けた。
「受け持ちの座席に忘れものがないか? 見て頂戴」
「はい!」
後輩の後ろ姿を見ながら、私は笑みを浮かべ小声を発していた。
「新たなライバル誕生になるかしらね?」
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