ライバルは空の上
「えぇ、伝えとくわ。何って云えばいいの?」 「次は電話番号を教えろって………」
言葉の途中で、私は彼の背中に力を込めて肘鉄をくらわした。
「イテっ!?」

「たっく、何考えるんだか!」
ボヤキ言葉を発しながら、私はテーブル席に座るさやかの向かい側の席に陣取った。
「ねぇ? あの制服って赤い翼(通称/日本航空を指す)の?」
「えぇ、まぁね」
引きつる顔を誤魔化すかの様、私は無理矢理笑顔を創ってみせた。
「知り合い? というか? もしかして彼氏?」 さやかの意味深な問いに、私は即答する。
「近所に住んでた知り合いよ」
「そう、かぁ……」
彼女は笑みを浮かべると、テーブル席から身を乗り出し私に言葉を繋げ続けた。
「だったら、彼を紹介してくれないかな?」
「やめとき! あんな女たらし、泣きを見るだけだから」
「そうかなぁ、男らしい感じの背中してるし、それに男ってそういう生き物じゃないかしら?」 さやかの恋に対する願望の火を消さん、私は言葉を返そうとした。
ウェイトレスが近付き、私は落ち着いた口調で「ラムステーキをお願いします」とオーダーし、立ち去る影を斜めに見ながら声を発する。
「浮気性の男はダメよ、何をするにしても中途半端に終わるんだから」 「でも、戦国時代や江戸時代の武将は何人も側室がいたじゃない? 一人や二人居たって、豪快でいいと思うけどなぁ」 「さやかちゃん?」
「何? 礼子?」
私はテーブル席から身を乗り出し、彼女の顔数センチまで私のそれを近付けて声を発した。
「恋は一途が一番よ、ましてや結婚相手は尚更(ナ·オ·サ·ラ)よ」 落ち着き払った口調(トーン)ながらも、怒っている表情を見せつける私を見て、彼女は引きつり笑顔を創っていた。
「そぅ? かしらね?」 首を横に振りながら、私は即答する。
「疑問形になってるわよ」
「はい……浮気はダメです」
「宜しい、それでいいのよ、さやかちゃん?」 「はい……その通りです」
引きつり笑顔の彼女に対し、私は表情を和らげ、さやかの目の前に置かれているハンバーグステーキを片手で指差し、声を発した。
「早く食べないと、冷めちゃうわよ」
「あっ? そぅね……」 そさくさとした態度でハンバーグを頬張る彼女を見ながら、私は微笑むと、深呼吸にも似た溜め息を吐いていた。
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