信心理論


ガタンッ


体が大きく揺れる。
減速した電車は、いつもの風景の中で静かに止まった。

ドアが開き、
車内に充満していた熱気が、外の空気に流れ込む。
色とりどりの服や鞄を持った人々は、一斉に小さな出口に向かって歩いていく。


様々な笑い声が、響いている。


その中を僕は、
無言で歩く。

久しぶりに晴れた空は、地上へと眩しい光を存分に送る。
その中で、キラキラと輝くアスファルトや木々が、道行く人を見送って居た。



あぁ……憂鬱だ。



人々は一様に、
同じ場所を目指して歩く。
歩道を埋め尽くす人の波は、穏やかに流れ続ける。


ふと、前を歩く女子学生の鞄に視線を投げた。
その瞬間、鞄から地面へと、赤いストラップのようなものが落ちた。
僕はそれを横目で見た後、少し先の交差点に目をやった。


そういえば、この間もこんなことがあって…そのあとにあそこで……



キィィィィィッ!!


まさに今視線を送っていた交差点で、2台の自動車が急ブレーキをかけた。
赤い軽自動車と、黒の乗用車。
直進車と右折車が、危うく正面衝突を
起こすかのようだった。



頭が揺れる。



この間も

同じことが

そこで

起こったハズ

だった



赤と黒のコントラストが、
はっきりと僕の記憶に残っていた。


僕は、しばらくその交差点で足を止めて居た。
周囲の、驚きと困惑の声を遠くに聞きながら、揺れ動く自分の感覚に酔った。



次第に、滞った人の波は戻り、立ち止まっていた多くの人々は先ほどと同じように、1つの場所を目指していた。



……なんなんだ?


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