信心理論
2.
まだ肌寒い風も、
暖かな日差しの中では妙に心地良く感じて、僕は柄にもなくキャンパスの中庭へと足を進めていた。

手にはパックの烏龍茶とおにぎりの入ったビニール袋。


廊下の向こうから数人の女子学生が楽しげな声をあげて近付いてくる。
僕は、それまで眺めていた長い廊下の奥の窓から、白く冷たい床へと視線を這わして、足を速めた。


声が遠くなる。


長い廊下を抜けて、重いドアを開くとすぐに一本の杉の木が姿を見せた。
決して大きくなく、太くもないその木の先には、濃い緑色が溢れていた。

僕はその木に近付いて、少し見上げるようにすると、少し陰った場所に腰を下ろしてビニール袋の中身を取り出した。


学内でもここの存在を知る人は多くてたまに先客がいたりする時もあるけれど、今日はこの冷たい風のせいで外に出向く人の数は限られているらしい。

「あったかいのにすれば良かったな…。」

手の中の烏龍茶にむかって、独り言を呟く。

日の陰るこの場所では、思っていた以上に体温が奪われていく。

溜め息を一つついてから、おにぎりを口に運ぶ。
それと同時に、奪われる水分を補充しようと、無意識にストローを口元へつけた。


一口飲んで、
また後悔。


「寒っ……。」

僕は、食べかけのおにぎりを元の袋へ戻し、暖を求めて立ち上がった。

足元では、小さな花と、後ろに立つ杉の木の影だけが風に揺られていた。
そして、今来た道を戻るため、僕はその場で振り返った。
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