信心理論
一歩踏み出す。

…つもりだった。



動けない。

目の前の光景に、
衝撃を覚える。


僕の背の2倍位ある杉の木の横で、そのてっぺんを見上げるように、真っ白な服を着た少女が、立っていた。


口元は微かに笑ってけれど瞳は、とても哀しそうに澄んでいた。


足元では、小さな花と、今自分の目の前に立つ杉の木の影だけが風に揺られていた。



杉の木の影だけが

そこで、

揺れていた。



ふらり、と少女が僕の方を振り向く。

真っ直ぐ、僕と少女の視線がぶつかる。

時間が止まったかのようだった。


僕も、彼女も、
何も喋らず、
一切動かず、
ただ互いに視線だけを合わせていた。


「私が……見えるの?」


彼女の、
淡い唇が動いた。

驚きをわざと冷ややかな声色で隠しているかのようで、少し声が震えていた。


「私が……見える、の?」


繰り返し、
彼女の声が響く。


冷たい烏龍茶を握り締めたままだった左手に、更に力をいれてから、僕は深く頷いた。



時間が、
動き出した。

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