君のいない街で
ビール
「おう。おかえり。」

またいる。田中は僕の帰りを待っていた。

「ちょっと田中さん。また勝手に入って。通報しますよ?」

冗談だ。もう田中がいることは苦にならなかった。

「おお。すまんすまん。ま、ビールやるから許してくれよ。」

「まったく。」
働いたあとのビールはうまい。
しかも田中のおごりで無料だから尚更うまい。

「アルバイトはどうだ?」

「楽しいですよ。意外にやり甲斐があるかもしれません。」

そうか。そりゃよかった。田中はちいさい声で呟いたが僕は聞き流していた。このとき田中の異変に気付いていれば。
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