君のいない街で
翌日、体調が悪いと嘘をついてバイトを休んだ。
朝一番で住人の部屋をノックすると、今回はすんなり扉を開けてくれた。
きっと、ずっとノックされ続けるのが嫌なんだろうと思う。

「昨日から欝陶しい。お前はなんだ。セールスか?」
「いや、違います。僕は最近ここに越してきたものです。はじめまして。」

「はいはい。はじめまして。それではさようなら。」
適当な返事をした後すぐに扉を閉めようとする住人。
それを阻止するために僕は扉に足を入れた。

「何するんだ。自己紹介がおわったなら帰れよ。」
「自己紹介をしにきた訳じゃありません。」

「じゃぁなんだ。欝陶しいから早く用件を済ませろ。」

「田中さんがいなくなったことご存知ですか?」
「え…?田中さんがいないのか?」

「はい。どこにいるか心辺りはないでしょうか。」

「ないな…あの人が行きそうな場所なんて…部屋には入ってみたか?」

「鍵がかかっていて入ることは出来なかったんです。」

「ここのアパートの鍵は全て共通だ。お前の鍵で入れるだろう。俺はこの部屋からは出られない…だから行ってみてくれ。」

「鍵が共通!?」

そんなこと有り得るのか。

「誰もいないんだからと田中さんが勝手に鍵を変えたんだ。」
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