君のいない街で
僕は世間知らずだ。何もしてやることができない。

頼むから死なないでくれ。
待合室で祈ることが僕にできることだった。

集中治療室から医者がでてきたのは、それからしばらくしてから。

「親族のかたでいらっしゃいますか?」

「いえ、友人です。」

「そうですか。親族のかたをよんでもらえますか?」

「すみません。僕には親族がいるのかどうかすらわからないんです。」

親族をよばなければならないほど、深刻な状態なのだろうか。

まさか…。
いや、大丈夫だ。

きっと治療費について話があるにちがいない。

そう。きっと…
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