君のいない街で
「そうですか。それでは…少し時間いただけますか?」

「…はい。」

僕は、応接室に向かった。

「飯間さんは、とても危険な状況だと言えるでしょう。」

「え?手術は失敗だったんですか?」

「いえ、手術は成功していますし、もう大丈夫です。安静にしていればすぐに良くなるでしょう。しかし…」

「しかし?なんでしょう。」

「ええ、精神状態が不安定なためにまた、同じことを繰り返す可能性があります。一般的にリストカットと呼ばれる行動なんですが、飯間さんの場合今回が初めてではないようなんです。そのことが心配で。」

「過去にもやっていたんですか…。」

田中が心配していたことはこのことなんだろう。

「身体の傷はやがて癒えますが、精神のものは癒すことが難しいのです。これからの生活を改善していかなければおそらくまた…。」

「そうですか。」

「これから精神科医に連絡をしてみますが、本当に癒すのは、退院後の日常生活だと言うことを知っておいてください。それでは。」

「わかりました。失礼します。」

病院を後にした僕は考えていた。今回のことに限って言えば、原因はおそらく借金取りとのことだろう。
田中に言えば、酷く傷付けてしまうのは間違いない。

頑張って借金を返そうとしている田中に水をさすことは出来ない。

このことは黙っていよう。
田中のため、飯間のために。
< 165 / 214 >

この作品をシェア

pagetop