君のいない街で
退院まであと一日
掃除をしている間、涙がとまらなかった。

乾いた血に雫が落ちても、滲むことすらない血痕が、僕の涙をとめどなく溢れさせた。

悲しいほど鮮明にのこされた血を僕はどうしたいんだろう。

すべてが無意味に思える。

こんなこと…

こんなひどいことはない。

僕らがいったい何をした。

平穏に暮らしたいだけだというのに。

部屋の隅で倒された写真立て。
そっと手にとり写真をみると、飯間が写っていた。
横には綺麗とは言えないまでも、見ているだけで幸せになれそう笑顔をしている女性がいた。

二人の薬指には指輪がついている。

飯間は結婚、もしくは婚約をしていたんだろう。

部屋をよくみれば、二人で暮らしていたことがわかった。

お揃いのマグカップ。
ダブルベッドに二つの枕。

歯ブラシも二つ。

だけどその女性はいない。

不謹慎かもしれないが、僕は興味を抱いていた。
明日飯間は退院する。
その時にきいてみようと決めた。
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