君のいない街で
熱帯魚
席の横の大きな水槽には、たくさんの熱帯魚が入っていた。

僕はそれを見ていた。

「ご注文の方お決まりになりましたらお呼びください。」

「…」

僕らは返事もしなかった。店員は戸惑いながらその場をあとにした。

「それで話って?」

熱帯魚を眺めながら、水槽にうつる飯間に問い掛けた。

「ああ、俺はあのアパートを出ようと思うんだ。」

あまりに突然のことで、僕は慌てて飯間の目を見た。

本気だ。
あれはそういう目だ。

「何故いきなり!?」

飯間はゆっくりと丁寧に言葉を選びながら話し出した。

「今回の一件でわかったんだ。俺はあのアパートにいると不幸になる。今からあの部屋に戻るだろう?そうするとまた、俺は…多分…同じことを繰り返す。医者に言われたんだ。治す気があるなら退院後のことを考えた方がよいと。
悩んだ結果、俺はこの街を出ることにしたんだ。俺のことを誰も知らない場所へ。」

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