君のいない街で
転機
別に意味はないけど、吸えないタバコを買ってみた。

煙が口の中に留まる感触。気持ち悪い。

煙は僕の周りを漂い、嘲笑うようにして消えて行った。


煙が消えた頃、歌ってみた。 別に意味はないけれど。

“中西保志”の“最後の雨”という歌を。


「いやぁ~見事な熱唱でしたね。下手くそな歌をどうもありがとう。」

誰だ?なんで見ず知らずのやつに下手くそだとかいわれなければならないんだ。

「なんだよ。」

「失礼しました。私は口が悪いほうでして、どうかお気を悪くなさらずに。私は歌手を育てるプロダクションに勤めているものです。」

「なるほど。それで、あまりに下手くそな僕の歌を笑いにきたのか。」

「違いますよ。むしろ逆です。たしかに今は上手い方ではないかもしれませんが、あなたの声は引き付けるなにかを持っている。そう思い、声をかけさせていただきました。」
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