君のいない街で
僕の歌
なんでかな。
いつも歌っている場所なのに、違う場所のように感じる。

緊張で胸が張り裂けそうだ。

「頑張れ。」

その声の先には、田中と飯間。

応援に来てくれたんだ。僕のために。

息を大きく吸って、決意を固めたとき、ふとある女性に目に入った。

あれは…
彼女だ。

彼女がいる。
忘れることのない顔だ。間違いない。

腕に子供を抱えている。
横には男性。おそらく夫だろう。

そうか。幸せになったんだね。

よかった。なんでここにいるのかはわからないけどチャンスだね。

僕は歌うよ。

君への歌だ。

きいてくれ。

ギターの弦を弾き、僕は歌い始めた。

聴いてくれてありがとう。

皆の幸せが僕の幸せ。

歌うのは今日で最後にしよう。

これから僕は真面目に働くよ。

正社員になって家庭をもって、若い頃は大変だったと笑えるように。

僕から君に捧げる歌。
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