君のいない街で
君がいない
退院の日。
警察に連れられ、病院を出た。
振り返り、彼女のいた部屋を見ても窓からは違う人の顔が見えた。

そうか。
もう彼女は退院したんだ。

警察の善意で手錠をかけられなかった僕は、逃げることもせず、パトカーに乗った。

懐かしい風景が横切る。缶ケリをした公園。サラリーマンと揉めていた道。ついこの間のことなのに、今ではすごく過去のように思える。

警察署につき、パトカーを降りると彼女が待っていた。

涙を堪えているのだろう。ぎこちない笑顔で僕に語りかけている。

必死に無表情をつくり、彼女の横を通り過ぎる。
警察が、“何も言わなくていいのか?”と聞いてくれたが僕は首を横にふった。

何日か取り調べが続いたが、僕は最後まで本当のことは言わなかった。

僕はグループの一員。銀行強盗は手切れ金のため。彼女を人質にした。

何度そういったのかわからない。

その気持ちを察したのか、彼女も最後まで何も証言しなかった。

盗んだ金は銀行に戻され、僕の金も返って来た。
だけど本当に返してほしいものはもう二度と帰ってこない…。
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