先生
たった一人の家族のお兄ちゃんが私のために反対したこと。
私のために泣いてくれたこと。
お兄ちゃんもつらいってこと。
全部話した。
「それにね、先生には迷惑かけたくなかったの。もしもばれたら、先生がクビになっちゃうでしょ?そんなの私が耐えられない。先生が先生辞めるなんてそんなことさせたくなかった。守りたかったの、先生のこと。だからお兄ちゃんのこともあるけど、一番の理由は先生を私なんかのために人生棒に振ってほしくなかったからなの。」
私は話しながら泣きそうになった。
「ちょっと、教室入ろっか。」
神木先生は私の手を引いて近くの真っ暗な教室に入った。
「いいよ、泣いて。」
神木先生のその言葉で私は涙が溢れてきて止まらなくなってしまった。
「よしよし。」
と言って神木先生は肩を貸してくれた。
まるで、お兄ちゃんみたいな感じだった。
神木先生は先生なのに、お兄ちゃんって感じがしてすごく安心する。
「今まで一人でよく我慢してきたな。つらかったな。もう、無理するのやめない?我慢することないよ。
ねぇ、吉岡。吉岡はきっと一番大事なものを見失ってるんじゃない?」
「一番、大事なもの…?」
「うん。一番大事なものは、気持ちだよ。吉岡が太陽を好きな気持ち。太陽が吉岡を好きな気持ち。二人で一緒にいたい気持ち。
この気持ちで、お兄ちゃんの気持ちを変えるんだよ。気持ちを気持ちで変えるんだ。そういう気持ちが大事なんじゃないか?」
気持ち……か。
「もうマイナスな気持ちは捨てて大切にしたい気持ちだけ持っていこうよ。
太陽と離れてもう一年だろ。十分頑張ったよ二人とも。もう無理するな。」
「神木先生……」
私はまた涙が出てきてしまった。
ほんとに、なんでこんなにいつも神木先生の言葉は心に響くんだろ。
「これからのこと、よく考えてみなよ。」
私は泣きながら、コクンと頷いた。
もう、素直になりたい。
このことを誰かに聞かれているとも知らずに私はそう強く願った。