(短編)君に微熱
「俺がより戻そうとか言ったら、そんな泣きそうな顔しなくなるかと思って言ってみただけだよ、でも意味なかったみたいだな、さ、あいつも戻ってこねーし、帰ろーぜ」
正直自分でも、うまく誤魔化せてた自信はない。
さすがの瞳も、俺の言葉に納得がいかないような顔をしている。
「ほんと雅って、何考えてるか分かんない」
「何?」
「んーん、なんでもない」
会計を済ませ、店を出る。
今度あいつに会ったら、今日の代金請求しないとな。
そういえば今日、瞳を家まで送るのは俺の仕事ってことになるのか。
この寒さで、酔いもすっかり覚めたみたいだし、大丈夫だよな。
「瞳、ちょっとこっちこい、良いこと教えてやるから」
人差し指の上下運動だけで瞳を目の前まで呼ぶと、少し屈んで彼女の耳元に顔を寄せた。
「和泉って、嘘ついてる時だけは、ぜってー目ぇ見て話さねーんだ」
え?とこっちを見た瞳に、言ってる意味分かるよな?と確認すると、彼女は黙って頷いた。
彼女いるなんて嘘、俺を前に通用するわけねーだろバーカ。
「じゃ、行くか」
「うん」
「頑張れよ」
「うん、あ、雅はさ、もうちょっと髪短い方が格好いいと思うよ」
「・・・うるせーな、わかってるよ」