Heat haze〜陽炎〜
「ギターどうしたの?」

肩から下がるギターのソフトケース


「今、こいつの音を探してるんだ。」


チラッとギターに視線を向けて言う


「音?」


ギターって音が出るじゃん?なのに“音を探す”ってどういう意味?



「なかなか、いい音になってくれないんだよな…。
ツアーに連れていかなかったからかなぁ。」


真剣に話すモト兄をみて思わず笑ってしまった


音楽が本当に好きなんだね

「笑ってろ。」



少し拗ねたように
スタスタ行ってしまう


「あ、待ってよ…。」


私もそれを追いかける


でも
人が多くて上手く歩けない


ドンッ!


「きゃっ!」


ぶつかった衝撃で体制を崩す私…



グイッ


大きな力が私の体制を建て直した


「いい加減にちゃんと歩けるようになれよ。
変わんないな……クスクス…。」



あ…
モト兄に掴まれた腕から伝わる体温


遅れて香るモト兄の匂い


あの頃と同じ
私の大好きな匂い



時は流れ
虚ろい行く日々の中で
変わらないものなど無いと言うけれど


決して変わらないモノも
ある


そう
今ここに在るもの


それは
変わらないモノ
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