Heat haze〜陽炎〜
二度目のモト兄の家


ゆっくりインターホンを押す


ガチャガチャ


「来てくれてありがとう。」


久しぶりに見るモト兄は窶れていて疲れきっていた


足を踏み入れた部屋



そこは始めてきたときとは違い、荒れ果てていた



「な…にこれ?
どうしたの?」


ベッドに腰かけているモト兄に訪ねる



「かけないんだよ…。」


絞り出すような声


「何も浮かんでこない…
こんなの初めてだ…。

もう期限は過ぎているのに、音も詩も何もできてない!」



頭をかきむしり項垂れるモト兄…


必死でもがいている姿が
私の心を締め付けた


自分でもどうしてあんなことをしたのかわからない


ただ
気が付いたらモト兄を抱き締めていた


痩せ細った肩をしっかり抱き締める


「書かなくていいよ。
無理して書かなくていい。曲も作らなくていい…。
今はゆっくり休んでいいんだよ?

大丈夫。

音は必ずやって来るから。大丈夫だよ。」



震える肩を抱いて


私は実感してしまった


わかってしまった



本当の気持ち
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