Golden Apple

顔を覚えるのは苦手だけれど、会ったかどうかくらいは分かる。何の記憶にも引っかからない男を見下ろしてゆっくりと首を傾げる。

でも、一般人が「クラギ」と呼ぶはずがない。

そうなれば必然的にこの男はこっち側の人間だということが分かる。

で、誰だろう。


「ここに戻ってもらえますか。火、あげますよ」

「要らない」

「そんなに背中の毛を逆立てなくて大丈夫です」

「…お前、何?」


何かと思った。
誰かではなくて。

顔の知らない人間に憎悪を向けられることはあっても、今回のようなことは一度としてなかった。



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