星屑ビーナス
「…ここで大丈夫です。後は歩いて帰ります」
「?おい奥谷っ…」
シートベルトを外し車から降りようとする私に、彼は引き止めようと手を伸ばす。
けれどいつの間にか青になっていたらしい信号に、後ろの車からプッと鳴らされたクラクション。彼がそれらに気を取られた隙に、私はドアを開け車から降り細い道をかけて行った。
「…、」
バカ?
引きずってる?
そうだよ。どうせ私はいつまでも、進めないままのバカ
そんなこと自分でも分かってるんだから、わざわざ突き付けなくてもいいじゃんか
何も知らない、分からないくせに
『お前とは結婚出来ない』
繋いでいたはずが、突き落とす手
『奥谷さんって婚約破棄されたらしいよ』
『うわ…可哀想』
哀れむ周りの目に、引きずりこまれ
『大丈夫か?元気出すんだぞ』
『はい、大丈夫です』
飲み込む、闇
ひとりきり、果てしなく終わることのない闇
つらい
苦しい
怖い
痛い
例え光が小さく差しても、そこに向かうことなんて出来ない
全て繰り返さないために
今日も、この指輪は光るから
(…一番悲しいのはこの指輪自身か)
愛を誓うためにあるはずのものが、その意味さえ変わってしまったのだから。
「…、…」
指輪を揺らし一人歩く
暗く続く、この道を