星屑ビーナス
こいつ、奥谷は6つ下の後輩だ。
入社式で俺に向かって『歴代最高のものを作るヒットメーカーになってみせる』と言い切った、恐ろしい女。
小柄な人間が多いこの部署で、元々身長が高めなうえにヒールを履くから余計でかく見える。
声もでかいし、無駄に強気で全力。けれどそれはもちろん勢いだけではなく仕事としても成果はきちんと現れ、20代半ばにして第二商品部のリーダーにまでのし上がった。
その点はすごく、頑張っているほうだと思う。
そして、俺と同じ苦い経験をもつ人間だ。
「?どうかしました?」
「…いや、別に。それより午後、店舗見学行くの覚えてるだろうな」
「あ、はい。渋谷店で接客見学ですよね」
「あぁ。売り場と販売を見て、企画や新商品の参考にするためにな。13時に出るからそれまでに飯と支度済ませておけよ」
「はーい」
「あっ奥谷さーん!向こうでお電話きてますー!」
「今行くー!じゃあ、失礼しまーす」
「おー」
オフィスの外から呼ばれる声に、奥谷は忙しなく去って行く。
背筋を伸ばし心なしかスッキリとした顔で、その首元にはもう指輪はない。
(…一歩前進、か)