星屑ビーナス
その名刺を手に従業員通路へ入ると、そこには一人俯き立つ奥谷の姿。スカートからのぞく細い足は、止められたまま。
まだ躊躇いそうになる自分の心を押し、声を発する。
「奥谷」
「…真崎さん、」
やはり動揺しているのか、こちらを向くその顔は戸惑いがちに瞳を揺らす。
「すみません…いきなり、」
「いや、いいよ。…あれ、例の元彼だろ?」
「?何で知って…」
「ちょうどさっき話の流れで和泉から元彼の特徴聞いてたからな」
「どんな話の流れ!?」
すかさず突っ込む奥谷に、俺はずいっと名刺を差し出した。
「…?」
「これ、渡してくれって」
「……」
『鳥羽圭介』そう書かれた名刺に、その手は受け取ろうとはしない。
一瞬にして顔を引きつらせ、ぐっと拳を握った。