星屑ビーナス
12.心に、ひとつ
ー…
「……」
ある夜、仕事帰りの電車の中でぼんやりと見つめるのは一枚の紙。
その小さな紙には『鳥羽圭介』の名前と、あの頃と変わったアドレスと電話番号が書かれている。
(…連絡先、変えたんだ)
思い出すのは、先日渋谷店に行った際に見かけたその姿。
『……』
変わらない、姿。背の高い体をスーツに身を包んで、こちらを見つめていた瞳。
指輪を外して吹っ切れたはずなのに、一瞬あの頃の景色に引き戻されそうになった。
(まさか、今更行きあうなんて)
しかも真崎さんに名刺まで渡したりして…ありえない。何を考えているのか。
そう戸惑うと同時に、心にひっかかるのは
『なら捨てろ。自分でな』
『意地は張るなよ』
突き放すような、彼の言葉。
…あれはつまり私と圭介がどう接しようと関係ないってことで、互いに気持ちがあるのならヨリを戻そうが関係ないってこと。
少しくらい引き止めてくれたり、名刺を目の前で破り捨ててくれたらよかったのに、なんて妄想混じりのワガママだ。