星屑ビーナス
「やっぱり、まだ引越しとかしてなかったんだ。待っててみるもんだね」
「……」
何で、どうして、
問いかける言葉は沢山浮かんでくるけれど、何一つ声に出すことはなく私はその場から歩き出す。
「…知香、待って」
「…、」
そんな私の腕を、その手はぐいっと引っ張り引き止めた。
「…何」
「少しでいいんだ。…話、しない?」
「…今更話すことなんてない」
「…訂正する。少しでいいから、話がしたい」
「……」
腕を掴む、大きな手。
冷たい態度を見せるものの、その久しぶりの感触が頑なな気持ちを惑わせる。
「…少しだけ、なら」
駅前でこうしているのも気が引ける。仕方なく頷く私に彼はありがとう、と呟いて歩き出した。