星屑ビーナス
そしてやってきた男子トイレで、彼は手を洗う台に私を座らせてスーツのポケットからハンカチを取り出し水で濡らし始める。
「勢いよくかかったな…おい、足冷やすからストッキング脱げ」
「え!?いきなり何言って…」
「脱がないなら破く。足貸せ」
男の人の前でストッキングを脱ぐ、なんて足を冷やす為とはいえ抵抗がある。そんな私の気持ちを気に留めることもなく、彼は赤くなった私の左膝部分のストッキングをピッと伝線させ破いた。
「…、」
濡らしたハンカチを膝に当て、足に触れる指先。
その感触に、コーヒーの熱さも忘れドキリとしてしまう。
「…これくらい大丈夫なのに」
「バカ。痕になったらどうするんだよ」
「別に仕事に影響ないですし、やけどしたところで怒る人も悲しむ人もいませんから」
「女がそういうこと言わない」
「……」
普段は容赦無く叩いてきたりバカだのアホだの言うくせに、不意に出る女扱いに込み上げる照れ。
それを隠すように俯く私に、その手はまたハンカチを冷やし直して膝にあてる。