victim
授業が終わって、帰宅しようとしていた時だった。
窓から見えたのは、真っ黒な車。
普段あんな車ないのに、と不思議に思っていた。
それは校門に寄せてあって、
近くにいる男がきょろきょろと周囲を見渡している。
誰かを探しているのだろうか。
そのくらいしか気にならなかった。
靴を履き替えて校門を出ようとすると、茶髪の男とちらりと目が合った。
そして獲物を捕らえたような鋭い目を一瞬細めると、
校門の前で立ち止まっているあたしに近寄ってきた。
そして違和感のある微笑みを浮かべて、
「君が儷ちゃんだよね。
少し、話したい事があってね。時間、いい?」
なぜか、あたしは嫌な予感がした。
断ろうと口を開くけれど、鋭い瞳が怖くて、口に出せない。
なんだ、この男。
「・・・だめ、かな?」
そう聞きつつも、あたしが承諾するように睨んでくる。
だから、仕方なくあたしは「大丈夫です」と答えた。
それだけ答えると、
男はまた違和感のある微笑みを浮かべて、「じゃあ車に乗って」と素っ気なく言ってきた。
背中に受ける、生徒の痛い視線。
その中で、女子の集団の一人が、ぼそりと呟いた。
「・・・マジキモ・・・姫になったからって、青龍のリオさんに送り迎えしてもらうなんて。
マジなめすぎじゃね」
「いいなぁ、リオさんと喋れて・・・。
ほんと姫って特別だよねー」
『青龍のリオ』
ようやく気付いた。青龍がなんなのか。
そして姫が、どういう意味なのか。
だからこそ、あたしは背中に、ヒヤリと冷たいものが走って。
けれどももう後戻りはできない。
もう、この時から危険信号は出されていた。
けどこの時あたしがたとえ、逃げ出していたとしても。
きっと、どれも同じ結果になっただろう。
全ての元凶に、
出会ってしまったのだから。