恋の相手はお隣さん。



「――紗英。どうした?」

蒼汰と別れると、すぐに響の部屋を訪れた。今日はおすそ分けをもっていないのに、部屋に上げてくれた響。これはすごく珍しいことだ。それなのに私は滅多にない甘い対応を喜ぶ前に、蒼汰の言葉が気になってうわの空だった。

「ずいぶん大人しいな――熱でもあるんじゃないのか」

隣に座っていた響が怪訝な顔をしながら、私の額に手を当てる。大きな手に触れられたら、かぁぁっと頬が火照って、違う意味で熱が上がってしまう。

「熱じゃないみたいだな?」

そんな私の様子を見て、意地悪な顔で笑う響が、悔しいけど――それ以上に、好きだと思う。

「……私だって、たまには大人しい時もあるもん」
「それは悪かったな。いつもそうだと助かるんだけど」
「……意地悪っ」
「でも、好きなんだろ」

悔し紛れの言葉なんて、シレっと涼しい顔で受け流される。私の気持ちなんかお見通しって口振りだけど、否定できない。
好きじゃないなんて、冗談だって言いたくない。
拗ねても喚いても、どうせ響の手のひらの上なら、そんな嘘なんて無意味だから。



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