恋の相手はお隣さん。


「……そういう計算は違うところで発揮して欲しいもんだな」

響は二度目のため息を吐くと、私の腕を引いて立ち上がらせた。

「十分で戻るぞ」
「……うん!」

こういうのも一種の駆け引きになるのかは謎だけど、少しでも長く一緒にいられるのが素直に嬉しい。私がよっぽど浮かれていたのか、やや呆れ口調で響が呟く。

「期待するにはまだ程遠いな」
「……響って、本当に意地悪だよね」
「そう言われるのは誰のせいだろうな?」

何も言い返せなくて、むうっと唸る。響は私の頬をツンと指で突いた。

「早くしろ。あんまり待たせると、置いてくぞ」


自分の部屋の前を通り過ぎて、響とマンションの外に出るのは不思議な気分だった。
この季節独特の生温い風が、私たちの間を通り抜ける。響と出会って四度目の夏が、もうすぐそこまで近づいている。それなのに、一向に距離が縮まらないのがもどかしい。
微妙な距離を保っているのが寂しくなって、私は響のシャツをツンと引っ張った。


< 33 / 56 >

この作品をシェア

pagetop