恋の相手はお隣さん。


「上条くん?」

背後から、響を呼ぶ声がした。
反射的に振り返ると、ふわりと髪を靡かせて、私の横を女の人がすり抜けていった。
すれ違うときに香った柑橘系の匂いが印象的なその人は、親しげな笑顔を響に向けている。
誰――?

「偶然ね。上条くんって、住んでるのこの辺だっけ?」
「……あぁ。鈴井もか? 珍しいな、こんな場所で会うのは」
「私はよく、仕事帰りにビールを買いに寄るんだけど」
「へぇ。意外だな」

どうやら同じ会社の人らしい。“鈴井さん”に応じている響の雰囲気が、私といる時とは全然違う。なんだか知らない男の人みたいだった。
いつも子供扱いされる私と違って、鈴井さんは響に対等に扱われてる。それは、口調や態度から一目瞭然だ。
自覚があるからこそ、不安になる。私が大人になるまで、本当に待っててくれるのかな、って。


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