恋の相手はお隣さん。
「私服だと雰囲気違うのね。若く見える」
「お互い様だろ」
響が苦笑すると、綺麗に化粧した顔を綻ばせた鈴井さんは、何気ない仕草で響の腕に触れた。
――触っちゃ……嫌っ!
「響……っ」
咄嗟に大きな声で呼ぶと、つかつかと歩み寄って、響のシャツを引っ張った。
「響……誰……?」
私の前で、仲良さそうに女の人と喋らないで。私が知らない顔をしないで。
心の叫びを視線に込める。響はシャツを掴んでいた私の手をほどくと、呆れた顔を隠さずに眉間に皺を刻んだ。
「紗英。お前……」
「あら、妹さん?」
「いや、隣に住んでるんだ」
一瞬だけ冷めた目で私を見下ろした響は、そのまま視線を外した。明らかに怒ってる時の表情に、スッと血の気が引くのを感じる。