いろんなお話たち

「誰、その子」
朝。
パンをかじりながらあからさまに眉を寄せたメイちゃんに私は笑って横にいる女の子を手で示した。
「えっとね、こちらは今日一緒にダンジョン攻略してくれるリンちゃんです! リンちゃん、彼女は私のパートナーのメイちゃんです」
昨日あれから話して、地図は一つしかないと言う宿主の言葉にじゃあ一緒に行きましょうよと私は少女に提案した。
押し押し作戦でクールな彼女に話続け名前を聞くことに成功。
渋る中メイちゃんに紹介することもできた。
が…
「はぁ…女の子を紹介されてもねぇ。昨日話したこと忘れたの? そもそもダンジョンって何よダンジョンって」
額に指ついてやれやれと嘆息するメイちゃんに、意味がわからず首を傾げる。
「あれ? 今日はダンジョンに行くんじゃ…」
「違うわよ。ちーがーう。私は今日、ギルドに行こうって言ったの」
「ギル……ええっ」
勘違いと早とちり。
びっくりしてまだ中身の入ったグラスを乱暴にテーブルの上に置いてしまった。
ギルドってことはつまり、今日も男漁りってことで。
昨日宿主さんとリンちゃんと三人で遅くまで話してたのは一体なんだったのか。
私の睡眠時間を返してほしい…いや問題はそこじゃなくて。
「――ンじゃ、これはいらねぇって訳だ」
うーんうーんと考えてたら膝上にあった地図をかっさらう手があった。
慌てて振り返ると、もうその背中は部屋を出ようとしている。
「あっ待っ待ってリンちゃん! 女の子一人で行くのは危」
「軽々しく人の名前呼ばないでくれる。うざい」
首を捻って私を見たその瞳が。
「………ぁ」
突き放す声音が。
空気が。
女の子のそれとは思えないほどに冷たくて怖くて。
言葉遣いが悪いから余計かもしれないけど…何も言えなかった。
何も返す時間を与えずに、開いたドアは閉じられた。
「…嫌みな奴。あーいうのに限って男の前だと性格変わったりするのよね。好きに行かせときなさい、心配いらないわ」
フォークを新鮮葉っぱに突き刺し咀嚼しながら、ポツリとメイちゃんが呟き。
「そう……なのかな」
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