いろんなお話たち

「みー」
昼休み。
ちょんちょんと肩を指で叩かれ振り向くと彩がいて、
「あのねぇ今、若菜からメールきて。久しぶりに3人でカラオケ行かない?」
美帆は、と聞いたら用事があるらしく行けないんだよと彩は言った。
…カラオケか。
うん、偶にはいいかな。

ところが。
「ダメなのっ。予約とれなかったのっ」
次の日彩はそう言うなりしょぼんと落ち込んでしまった。
「…じゃあ買い物でもする?」
隣町のショッピングモールでも行こうか。
駅おりてすぐだし。
私の提案に二人とも頷いてくれた。

「17日? …残念だな、その日は先約が」
「いえ、誰も貴方と一緒がいいと言ってませんが」
「俺は行けるぞ。みゆ」
「久登さんも付いてこないで下さい……っていうか何ですか、その格好は!?」
自宅だというのになんで変装ルック!?
人差し指を交互に向けると袴姿のクラウスさんが腕組みをし嘆息。
「……詳しくは話せねぇが、ま…すぐ終わるだろ」
何が? 詳しく訊こうとすると遮るように久登さんが続けた。
「俺達の保身だけでなくお前の身にも関わる事だ。暫く迷惑を掛ける事になるが…」
二人の間で自己完結してる事柄を。
何だか色々よく分からんが聞けそうな雰囲気じゃない。
「はぁ…解りました。(設定として)く…沖田さんは従兄弟だから我が家に宿泊中としても葵さんはどうするんですか」
久登さんはクラウスさんの知り合いという設定だったのを思い出した。
というか彼らを偽名で呼ばなきゃいけないのか。
ややこしいな。
「適当にホームステイとかでいいんじゃねぇか。もしくは孤児」
「余計ややこしくなります沖田さん」
「…思うんだけどよ、その沖田ってのやめにしねぇか」
「……名前呼びですか? ヤですね。葵さんはともかく」
執事の時と比べてなんだか剣呑な雰囲気が立ち込める私とクラウスさんを余所に久登さんは何か閃いたらしく。
「それでいい」
「え?」
不意に嫌な予感がした。
というのも彼は時々変な発言を素で言うからで。
「俺達は交際している。…それなら同じ屋根の下暮らしていても怪しくないだろう」
…やっぱり…思いの外真顔で言うので私は反応に困った。
クラウスさんは声を上げて笑っている。
「……沖田さん。彼に女性紹介は」
「したした。けどなぁ…こいつ人情本も碌に読んだことがないらしい」
人情本?
ナニソレエロ本?
あ、違う?
「とりあえず葵さんは親に勘当されて行き場をなくした、でいいですね」
やれやれと額に手をやりながら私が言うと二人ともあからさまに嫌な顔をした。
久登さんはともかくクラウスさんまでなぜに?
…文句あるなら考えなさいよ。
「私は嫌だからね。恋人とかそんなの」
「……自意識過剰だな、フリに決まってんだろうが」
「沖田さんは黙ってて下さい! フリだろうがなんだろうが面倒臭いの!」
「ああ。男女の縺れは厄介だと俺も思う」
「葵さんも少し黙ってくれませんか」
……話は纏まらず葵については訳あり下宿人となった。
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