いろんなお話たち
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車椅子用の駐車スペースに停まってる車から健常者がおりてきたら本当に苛々する。
店とか入口の傍だから停めるんだろうけどそんなに楽がしたいなら、いっそのこと本物の車椅子になっちゃえばいいのに。
ある日私が告げた言葉に、ちはやちゃんは思い切りうなずいて。
彩と若菜は苦笑した。
しかたないよ、って。
私が過剰反応しすぎなのかな。
でも、ファミリーとかお年寄りとか赦しちゃったら、広くしている意味なくなるじゃない?
本当に必要な人が狭いところで我慢しなくちゃいけなくなるんだよ?
「みー何してるの~みんな先行っちゃったよぉ」
「あ…うんっ」
彩の声にはっとして、ゆっくりと足を動かす。
少し先では先生と京子ちゃんが待っていた。
病院棟から訓練棟へは外に出て移動する。
冷たい風が吹きすさぶ1月の始め……今日は障がい者職業能力訓練校の見学に都内まで来ていた。
大体訓練校というと訓練する為の建物一つだけだけどここは病院と隣接してる為いざというときは先生に診て貰えるのだ。
寮があるけど中には介助員が付かない為近くのマンションやアパートを買ってそこでヘルパーに頼みながら通う人もいる。
「…ご覧のように我が校には大手企業からの求人も多く…」
案内人の人が手で示すボードには確かにハローワーク等で見るよりも沢山の求人票。
ある程度自立が出来て尚且つ能力が高い…早い話交通事故等の中途障害の人が殆どだから(あ、そういう意味では私も中途か)ちはやちゃんなどの筋ジスや脳性マヒなどの要介護者(元からの障害児)は恐らく重度に入ってここには…社会には求められていない。
「養護学校の生徒さんは…こんなこと言うとアレですが…'待ち'の方が多い。何も言わなくても先生が勝手にやってくれる、そんな生活が当たり前でしょうからここに来ても例えば一つの作業が終わっても他の人は終わりました、次は何をすれば良いですかと尋ねますが養護のお子さんは何も訊ねない。言っておきますが目で訴えたりとかそういうのは此方は徹底的に無視しますので…」
前も言ったけど養護学校は生徒の数より圧倒的に教員の数が多い。
殆ど1on1だからこの訓練校の人の台詞にほぼ誤謬はなかった。
そもそも普通学校のような他生徒との競争みたいなのもないし……
「七海さんは進路決まったんですかぁ?」
見学が終わり帰りの電車内でちはやちゃんが尋ねてきたけど
「うんー…就労実習は結局反古になったし訓練校……△市か□市かのどっちかかな」
就労実習という名のうまくいけばそのまま就職に結びつく実習は若菜が働いてる会社で11月下旬にやれることになってたんだけど……たった1日で終わってしまった。
私が断ったからだ。
理由についてはここでは省略する。
別にこれは林檎ちゃんやクラウスさんや久登さんは関係ないことで。
訓練校は生涯で連続2年しか使えないって決まってる。
本当はこんな焦燥で決めるものじゃないということはよく分かる。
けど……。
「お帰りなさい、み」
「何の冗談ですか」
外人のようにキスをしてお出迎え。
そんな扱いを受けそうになり私は近づいてきたクラウスさんの頬を叩いた。
さらりと流れる青灰色の髪にはやっぱり王子のような出で立ちが似合う。
それこそ久登さんと並んだ時は半端なくここは日本ですかと疑う。
でもそこまでの芝居は正直いらない。
「どうした。今日はやけに…見学で疲れたか?」
「そうです。疲れました。今は誰の顔も見たくないので引っ込んでくれませんか(かといって侍に戻ってと言うのも…)」
一杯水でも飲んで横になろう。
キッチンに行きコップ立てから手前の湯呑を取ろうとしたところで横から別の手が湯呑を取り親切にも水を淹れてくれた。
ああ、この黒袖は
「(外出着: 久登さん版だ)久登さん、ありが…」
目線を上に上げて思わず渡されたコップを落としかねた。
赤銅色の髪と眼…!?
「いいい異人さんの知り合いは確かいなかったと思いますが、どうもこんにちは、ありがとうございます、」
うわぁ何言ってんだ私、呆気にとられた様子の久登さんにかぁっと顔が熱くなる。
「あ、いや、す…っ」
落ち着け。
まずは落ち着かんと。
コップをぐいと傾け一呼吸。
すーっ。
はーっ。」
「……林檎ちゃんから連絡ないのに、瓶呑んだんだ?」
内容は忘れたけど何ヵ月か前に(多分アドレス交換してまもなく)、近いうち会えない? だかそんな電話を貰ったのだが丁度私は個人的な理由で学校と争ってる最中だったので
「こっちは今進路で悩んでんだから電話してくんな!」
……久登さんやクラウスさんによると糞ガキとか色々彼女を詰ったらしい……いやほんとすみません。
でもKY発言にはムカついたのよマジで。
とにかくそれから連絡は来てない。
気を利かせて寄越したのかレイさんからのメールには林檎ちゃんは気分を害してはいないとの事で。
彼の情報によると彼女は中3(15歳)らしい。
一貫校だから受験はないみたいだけど…久登さんが口を開きかけたところでその肩に手が乗り
「2人で出掛ける用事があったんで仕方なく……な」
「……。」
ほう。
事情はわかった。
わかったけど無駄なウインクは本当いりません。
しかし画になるな。
今度隠し撮りしてボーイズラブが好きなネットの友人に添付メール送っとくか。
「……あ、そだ。母に話があったんだ」
湯呑を片付け、左手で右手をぽんと叩く。
道を塞ぐように立つ2つの影が邪魔で退いて貰った。
「え? 職業訓練校に?」
「…うん。国内ってなってるのが県内にあるけど端と端じゃん。それで隣町のなら…一応県の管轄にはなってるし…」
何かあった時の為に近い方がいいでしょう。
「それに何よりも介助の人が付くの! それだったら安心でしょ? ね?」
そもそも私は着替えをちょっと手伝ってもらうだけだから。
それならそんなに向こうの人の手を煩わさないはずだ。
「待ってみゆ。お父さんにも一応話してから」
「お父さんは私が決めた所ならどこでもいいって」
「訓練校行って一体何するんだ? 第一、そう上手く就職先が見つかるとでも?」
「上手くいかなかったら在宅の仕事でいいの教えてくれる先生がいるからその先生に相談してみるつもりだよ。それに寮生活だからその間に勉強して、将来一人暮らしできるように頑張るし」
小中学生のころみたいに、行きも帰りも全部私一人でやってみる! ううん、そうしたいの!
ぐっと握り拳作るとそれまで静かだった久登さんがぼそっと
「……みゆ様のご年齢ではまだ勉学に励んだ方が「外野は黙っててくれる?」
ったくもう。
久々に話したと思ったら言葉遣いが戻っているなんて。
じとりと2人を睨むとはいはいと苦笑したクラウスさんが久登さんを連れ立って部屋を出ていく。
「別にいいじゃないみゆ。もう久登さんもクラウスさんも家族みたいなものなんだから」
「! 何言ってるのお母さんっ」
最近はめっきり家事全般をクラウスさん(+久登さん)がやるようになってしまっていた。
何かやらせてくれとしつこい2名にお母さんが折れた結果だけど慣れちゃいけない。
楽を覚えちゃ人間は駄目になるから。
「お金持ちでもなく血縁関係もないのにこんな生活。おかしいってお母さん言ってたじゃん」
「ち…違うわよみゆ。貴女勘違いしてるようだけど」
「…あのねお母さん。訓練は4月からでも寮の方は卒業してすぐに入るつもりなの。あの2人がなぜ家にいるのかってそれはやっぱり私のせいだから私が居なくなれば……」
「…みゆ」
「そしたら久しぶりにお父さんとお母さん2人きりの生活に戻れるね」
普通子供がある程度成長したら子育ては終わる。
子育ての延長みたいな生活を早く終わらせてあげたかった。
よくある中睦まじい中年夫婦のまったりとした生活。
仮に訓練中に職場が決まらなくても、訓練に来る人の中には車いすでも杖でも一人暮らししている人もいると思うからそういう人からアドバイスを聞きたいと思ってる。
<<若菜。どうして大学行かないで働こうって思ったの?>>
<<ん~…早く親孝行したい…って思ったからかな>>
うん。
私も若菜に続くんだ!
車椅子用の駐車スペースに停まってる車から健常者がおりてきたら本当に苛々する。
店とか入口の傍だから停めるんだろうけどそんなに楽がしたいなら、いっそのこと本物の車椅子になっちゃえばいいのに。
ある日私が告げた言葉に、ちはやちゃんは思い切りうなずいて。
彩と若菜は苦笑した。
しかたないよ、って。
私が過剰反応しすぎなのかな。
でも、ファミリーとかお年寄りとか赦しちゃったら、広くしている意味なくなるじゃない?
本当に必要な人が狭いところで我慢しなくちゃいけなくなるんだよ?
「みー何してるの~みんな先行っちゃったよぉ」
「あ…うんっ」
彩の声にはっとして、ゆっくりと足を動かす。
少し先では先生と京子ちゃんが待っていた。
病院棟から訓練棟へは外に出て移動する。
冷たい風が吹きすさぶ1月の始め……今日は障がい者職業能力訓練校の見学に都内まで来ていた。
大体訓練校というと訓練する為の建物一つだけだけどここは病院と隣接してる為いざというときは先生に診て貰えるのだ。
寮があるけど中には介助員が付かない為近くのマンションやアパートを買ってそこでヘルパーに頼みながら通う人もいる。
「…ご覧のように我が校には大手企業からの求人も多く…」
案内人の人が手で示すボードには確かにハローワーク等で見るよりも沢山の求人票。
ある程度自立が出来て尚且つ能力が高い…早い話交通事故等の中途障害の人が殆どだから(あ、そういう意味では私も中途か)ちはやちゃんなどの筋ジスや脳性マヒなどの要介護者(元からの障害児)は恐らく重度に入ってここには…社会には求められていない。
「養護学校の生徒さんは…こんなこと言うとアレですが…'待ち'の方が多い。何も言わなくても先生が勝手にやってくれる、そんな生活が当たり前でしょうからここに来ても例えば一つの作業が終わっても他の人は終わりました、次は何をすれば良いですかと尋ねますが養護のお子さんは何も訊ねない。言っておきますが目で訴えたりとかそういうのは此方は徹底的に無視しますので…」
前も言ったけど養護学校は生徒の数より圧倒的に教員の数が多い。
殆ど1on1だからこの訓練校の人の台詞にほぼ誤謬はなかった。
そもそも普通学校のような他生徒との競争みたいなのもないし……
「七海さんは進路決まったんですかぁ?」
見学が終わり帰りの電車内でちはやちゃんが尋ねてきたけど
「うんー…就労実習は結局反古になったし訓練校……△市か□市かのどっちかかな」
就労実習という名のうまくいけばそのまま就職に結びつく実習は若菜が働いてる会社で11月下旬にやれることになってたんだけど……たった1日で終わってしまった。
私が断ったからだ。
理由についてはここでは省略する。
別にこれは林檎ちゃんやクラウスさんや久登さんは関係ないことで。
訓練校は生涯で連続2年しか使えないって決まってる。
本当はこんな焦燥で決めるものじゃないということはよく分かる。
けど……。
「お帰りなさい、み」
「何の冗談ですか」
外人のようにキスをしてお出迎え。
そんな扱いを受けそうになり私は近づいてきたクラウスさんの頬を叩いた。
さらりと流れる青灰色の髪にはやっぱり王子のような出で立ちが似合う。
それこそ久登さんと並んだ時は半端なくここは日本ですかと疑う。
でもそこまでの芝居は正直いらない。
「どうした。今日はやけに…見学で疲れたか?」
「そうです。疲れました。今は誰の顔も見たくないので引っ込んでくれませんか(かといって侍に戻ってと言うのも…)」
一杯水でも飲んで横になろう。
キッチンに行きコップ立てから手前の湯呑を取ろうとしたところで横から別の手が湯呑を取り親切にも水を淹れてくれた。
ああ、この黒袖は
「(外出着: 久登さん版だ)久登さん、ありが…」
目線を上に上げて思わず渡されたコップを落としかねた。
赤銅色の髪と眼…!?
「いいい異人さんの知り合いは確かいなかったと思いますが、どうもこんにちは、ありがとうございます、」
うわぁ何言ってんだ私、呆気にとられた様子の久登さんにかぁっと顔が熱くなる。
「あ、いや、す…っ」
落ち着け。
まずは落ち着かんと。
コップをぐいと傾け一呼吸。
すーっ。
はーっ。」
「……林檎ちゃんから連絡ないのに、瓶呑んだんだ?」
内容は忘れたけど何ヵ月か前に(多分アドレス交換してまもなく)、近いうち会えない? だかそんな電話を貰ったのだが丁度私は個人的な理由で学校と争ってる最中だったので
「こっちは今進路で悩んでんだから電話してくんな!」
……久登さんやクラウスさんによると糞ガキとか色々彼女を詰ったらしい……いやほんとすみません。
でもKY発言にはムカついたのよマジで。
とにかくそれから連絡は来てない。
気を利かせて寄越したのかレイさんからのメールには林檎ちゃんは気分を害してはいないとの事で。
彼の情報によると彼女は中3(15歳)らしい。
一貫校だから受験はないみたいだけど…久登さんが口を開きかけたところでその肩に手が乗り
「2人で出掛ける用事があったんで仕方なく……な」
「……。」
ほう。
事情はわかった。
わかったけど無駄なウインクは本当いりません。
しかし画になるな。
今度隠し撮りしてボーイズラブが好きなネットの友人に添付メール送っとくか。
「……あ、そだ。母に話があったんだ」
湯呑を片付け、左手で右手をぽんと叩く。
道を塞ぐように立つ2つの影が邪魔で退いて貰った。
「え? 職業訓練校に?」
「…うん。国内ってなってるのが県内にあるけど端と端じゃん。それで隣町のなら…一応県の管轄にはなってるし…」
何かあった時の為に近い方がいいでしょう。
「それに何よりも介助の人が付くの! それだったら安心でしょ? ね?」
そもそも私は着替えをちょっと手伝ってもらうだけだから。
それならそんなに向こうの人の手を煩わさないはずだ。
「待ってみゆ。お父さんにも一応話してから」
「お父さんは私が決めた所ならどこでもいいって」
「訓練校行って一体何するんだ? 第一、そう上手く就職先が見つかるとでも?」
「上手くいかなかったら在宅の仕事でいいの教えてくれる先生がいるからその先生に相談してみるつもりだよ。それに寮生活だからその間に勉強して、将来一人暮らしできるように頑張るし」
小中学生のころみたいに、行きも帰りも全部私一人でやってみる! ううん、そうしたいの!
ぐっと握り拳作るとそれまで静かだった久登さんがぼそっと
「……みゆ様のご年齢ではまだ勉学に励んだ方が「外野は黙っててくれる?」
ったくもう。
久々に話したと思ったら言葉遣いが戻っているなんて。
じとりと2人を睨むとはいはいと苦笑したクラウスさんが久登さんを連れ立って部屋を出ていく。
「別にいいじゃないみゆ。もう久登さんもクラウスさんも家族みたいなものなんだから」
「! 何言ってるのお母さんっ」
最近はめっきり家事全般をクラウスさん(+久登さん)がやるようになってしまっていた。
何かやらせてくれとしつこい2名にお母さんが折れた結果だけど慣れちゃいけない。
楽を覚えちゃ人間は駄目になるから。
「お金持ちでもなく血縁関係もないのにこんな生活。おかしいってお母さん言ってたじゃん」
「ち…違うわよみゆ。貴女勘違いしてるようだけど」
「…あのねお母さん。訓練は4月からでも寮の方は卒業してすぐに入るつもりなの。あの2人がなぜ家にいるのかってそれはやっぱり私のせいだから私が居なくなれば……」
「…みゆ」
「そしたら久しぶりにお父さんとお母さん2人きりの生活に戻れるね」
普通子供がある程度成長したら子育ては終わる。
子育ての延長みたいな生活を早く終わらせてあげたかった。
よくある中睦まじい中年夫婦のまったりとした生活。
仮に訓練中に職場が決まらなくても、訓練に来る人の中には車いすでも杖でも一人暮らししている人もいると思うからそういう人からアドバイスを聞きたいと思ってる。
<<若菜。どうして大学行かないで働こうって思ったの?>>
<<ん~…早く親孝行したい…って思ったからかな>>
うん。
私も若菜に続くんだ!