いろんなお話たち

「ふっ…不合格っ?」
書面に記された3文字に頭の中が真っ白になった――確かにあの面接官にはまだ早いんじゃないのとか否定的な言葉をいろいろ言われたけど。
これは…これは酷すぎる!
「(あんまりだぁぁぁあ)」
意気消沈して机と額をくっ付けてると
「ほらみろ、言った通りじゃねえか」
「……沖田さんお願いします、あっち行って下さい……」
それにしても和装じゃないのに和名ってどうなんだろう…いや今はそれよりもっっ。
「七海」
声に振り向くと手紙を差し出す久登さん。
表には筆記体が書いてあり(残念ながら解読不可)裏は薔薇の封蝋が捺してあった。
少なくともこんな手紙送ってくるような外人の知り合いはいない。
「…宛名が間違ってるのかな。後で郵便局に出してあげよう」
久登さんに返そうとするとクラウスさんが呆れたように
「東條林檎だろ」
と言う。
「え…凄い。開けなくても判るんですか。もしや貴方はエスパー執」
「いいからさっさと読みやがれ」
「……。クラウスさん。言葉遣いが悪いよ」
招かねざる客の正体もわかりもう芝居する必要もないだろうにいつの間にか二人の砕けた言葉遣いが板についてる。
違和感が消えてる……クラウスさんは今でも時々イラッとくる時があるけど。
久登さんに封を切ってもらおうとしたら、それだけでなく彼は中の紙を取り出して渡してくれた。
「ありがと」
おぉ、クラウスさんの読み当たってるわ。
「なになに…って本文も英文か!」
残念、読めない!
辛うじて差出人が林檎ちゃんだと解ったのは文末に記されてる名前(日本語)のおかげで一番上のDear Miyuってのは分かる。
分かるが
「久登~解読よろ」
どうあがいてものたくった蛇にしか見えない。
額に手をやりながら後ろにいるであろう彼に紙を向けたが
「……」
紙は私の手にある。
ん?
「…久登?」
振り返り目が合った途端彼は慌てて奪うように紙をとり字面に目を落とす。
……。
もしかして。
「…久登」
私の声にびくりと反応。
「って呼ばれるのヤだった?」
「いや、別に俺は…!」
弾かれたように顔を上げた彼は激しく頭を振る。
「じゃあ何で無視……ははーん」
解ったぞ。
照れたように赤い目許。
普段は葵先輩だけども不意打ちの名前呼び捨てはそんなにダメージがあったか。
そうか……畜生可愛いな。
「で、中はなんて書いてあるんだ?」
(なぜか)苛立たしげに問うたクラウスさんに久登さんの顔色は元に戻る。
「……色々日常生活について一方的に書いてあるが要は誕生パーティをやるから来ないかと言いたいらしい。みゆ、どうする?」
「(ぉ、久登さんもみゆって呼んでくれた)へぇー面白そう。きっと豪勢なんだろうね」
「おい…まさか行く気じゃねぇだろうな?」
「へっ!? 行かないよ! 飛んで火に入る夏の虫になんか誰がなるかっての!」
ぶんぶんと手を振る私に押し殺したような殺気は中々消えない。
怖いっ…怖いよクラウスさん!
「まっましゃさんもさホラッ怒ると眉間の皺が寄っちゃうよ~?」
「気色悪い呼び方すんじゃねぇ」
ぅ……。
「クラウス」
吐息混じりの久登さんの声にクラウスさんは私から目をそらし部屋を退室。
……。
ドアをずっと見つめていると
「みゆ」
遠慮がちに声がかかり私は彼を見上げた。
「東條林檎に文を送るのだろう。俺で良ければ手伝うが」
「あ…うん……」
この後。
英文を勧めた彼を押し切り私は日本語の手紙を送った。
するとなぜか益々林檎ちゃんの興味を引いたらしく(今度は日本語で書かれた)手紙が送られてくるようになった。
< 26 / 92 >

この作品をシェア

pagetop