いろんなお話たち
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すきっていうのはそういうんじゃなくてあくまでも友達? としてスキって意味でそこに恋愛的な感情は断じてない。
大事なことなので二度言おう。
LOVEではない。
「(訂正せねば……このままじゃ誤解されたままになる)」
風呂上がり。
脱衣所の、鏡前にて。
椅子に座り、タオルを首にかけ左手でドライヤーを持ち、温風を髪にあてながら考えた。
着替えだけは同性であるお母さんに手伝ってもらってるけど、それ以外はなるべく自分で。
何度もクラウスさん、久登さんに手を出すなと言ったおかげでどちらかが傍にいることはなく。
けども、右の方でかちゃりとドアが開く音が――左目だけの視界では顔を向けて判別するしか――しかし「そのままで」という声がして鏡を見る。
鏡に久登さんがうつり、ふと違和感に気付いた時、手をかぶせる形でドライヤーの持ち手を掴んできた。
スイッチを切る。
「あ……」
「俺が乾かします。どうか手を、」
「……う、うん…」
鏡越しとはいえ視線が交錯して、逃げるように唇に目がいき、背後に感じる気配に急に恥ずかしくなって俯く。
ドライヤーの騒がしいスイッチが入って、長い指が優しく髪を梳いてくる。
久登さん……白い長衣姿……。
「………」
今まで呼んだ時しか傍に来なかったのに、やっぱり理由があったらしい。
脱衣所を出たあと彼は話があると言って私の部屋まで着いてきた。
そうして部屋に入りドアを閉めると。
片膝をつき申し訳ありませんと前置きを言ってから。
「暫くお暇を頂けませんでしょうか」
私をまっすぐと見上げてそう言った。
いとまってなんだろう。
青目にすぐはピンとこなかったけど、そういえばゲームで聞いたセリフだなと思いだし。
「うん、いいよ。久登さんの気が済むまでうんと休みをあげるっ!」
いとまが欲しい、といったキャラクターは主の下を離れてた。
だからそういう意味なのだろうと気づいて。
とびきりの笑顔でうなずく。
そうか。
林檎ちゃんのところに。
やっと、やっと従者がいなくなる……!
嬉しさが胸に広がるなかでなぜか痛みも去来したが、それはたぶんもう一人が残っているからで。
「クラウスさんには言ったの?」
久登さんが傷ついた顔をしている意味がわからず、目を合わさないで窓辺にいく。
カーテンを開けると三日月が雲に隠れてた。
「……はい。みゆ様をお守りするようにと」
「ええ? なんでさ? 大統領の娘とか王族とかじゃないのに」
過保護だなぁと笑いながら久登さんを見ると、彼は顔をそむけ立ち上がる。
「思ったんだけど、急に葵さんになったりさ、君たちの行動訳がわからなかったよ? 林檎ちゃんが脅威なのかと思ったけどそうじゃないみたいだし。何が危ないのかちゃんと言ってくれないとわからないよ」
久登さんは何も言わない。
もしかして私には関係のないこと?
なら別にいいんだけど、まもれって言葉に矛盾するよね? あー、もう、こんがらがるっ。
「ま、いーや。今までどうもありがとね、久登さん」
混乱しながらもやもやが胸の中に広がったけど、自己完結させた。
おざなりの言葉にも関わらず、彼は深々と頭を下げると踵を返して部屋を出て行った。
……あれ……もう終わり?
意外とあっさりした別れだったな……。
いやいや、別に何か期待してたとかそんなんじゃないけど……。
翌朝早く。
久登さんは七海家を出た。
荷物はどうしたのかなと思ったら自分で処分するのか持って行ってくれて。
部屋数は変わらない。
だけど心持家は広くなった。
さびしく思うのはペットが死んだ時みたいな感覚と似てる、最初だけだ。
言い聞かせるようにしている自分が不思議だった。
クラウスさんが何か励ましてくれたような気がしたけど、……いやいやそんな必要ないし!
すきっていうのはそういうんじゃなくてあくまでも友達? としてスキって意味でそこに恋愛的な感情は断じてない。
大事なことなので二度言おう。
LOVEではない。
「(訂正せねば……このままじゃ誤解されたままになる)」
風呂上がり。
脱衣所の、鏡前にて。
椅子に座り、タオルを首にかけ左手でドライヤーを持ち、温風を髪にあてながら考えた。
着替えだけは同性であるお母さんに手伝ってもらってるけど、それ以外はなるべく自分で。
何度もクラウスさん、久登さんに手を出すなと言ったおかげでどちらかが傍にいることはなく。
けども、右の方でかちゃりとドアが開く音が――左目だけの視界では顔を向けて判別するしか――しかし「そのままで」という声がして鏡を見る。
鏡に久登さんがうつり、ふと違和感に気付いた時、手をかぶせる形でドライヤーの持ち手を掴んできた。
スイッチを切る。
「あ……」
「俺が乾かします。どうか手を、」
「……う、うん…」
鏡越しとはいえ視線が交錯して、逃げるように唇に目がいき、背後に感じる気配に急に恥ずかしくなって俯く。
ドライヤーの騒がしいスイッチが入って、長い指が優しく髪を梳いてくる。
久登さん……白い長衣姿……。
「………」
今まで呼んだ時しか傍に来なかったのに、やっぱり理由があったらしい。
脱衣所を出たあと彼は話があると言って私の部屋まで着いてきた。
そうして部屋に入りドアを閉めると。
片膝をつき申し訳ありませんと前置きを言ってから。
「暫くお暇を頂けませんでしょうか」
私をまっすぐと見上げてそう言った。
いとまってなんだろう。
青目にすぐはピンとこなかったけど、そういえばゲームで聞いたセリフだなと思いだし。
「うん、いいよ。久登さんの気が済むまでうんと休みをあげるっ!」
いとまが欲しい、といったキャラクターは主の下を離れてた。
だからそういう意味なのだろうと気づいて。
とびきりの笑顔でうなずく。
そうか。
林檎ちゃんのところに。
やっと、やっと従者がいなくなる……!
嬉しさが胸に広がるなかでなぜか痛みも去来したが、それはたぶんもう一人が残っているからで。
「クラウスさんには言ったの?」
久登さんが傷ついた顔をしている意味がわからず、目を合わさないで窓辺にいく。
カーテンを開けると三日月が雲に隠れてた。
「……はい。みゆ様をお守りするようにと」
「ええ? なんでさ? 大統領の娘とか王族とかじゃないのに」
過保護だなぁと笑いながら久登さんを見ると、彼は顔をそむけ立ち上がる。
「思ったんだけど、急に葵さんになったりさ、君たちの行動訳がわからなかったよ? 林檎ちゃんが脅威なのかと思ったけどそうじゃないみたいだし。何が危ないのかちゃんと言ってくれないとわからないよ」
久登さんは何も言わない。
もしかして私には関係のないこと?
なら別にいいんだけど、まもれって言葉に矛盾するよね? あー、もう、こんがらがるっ。
「ま、いーや。今までどうもありがとね、久登さん」
混乱しながらもやもやが胸の中に広がったけど、自己完結させた。
おざなりの言葉にも関わらず、彼は深々と頭を下げると踵を返して部屋を出て行った。
……あれ……もう終わり?
意外とあっさりした別れだったな……。
いやいや、別に何か期待してたとかそんなんじゃないけど……。
翌朝早く。
久登さんは七海家を出た。
荷物はどうしたのかなと思ったら自分で処分するのか持って行ってくれて。
部屋数は変わらない。
だけど心持家は広くなった。
さびしく思うのはペットが死んだ時みたいな感覚と似てる、最初だけだ。
言い聞かせるようにしている自分が不思議だった。
クラウスさんが何か励ましてくれたような気がしたけど、……いやいやそんな必要ないし!