いろんなお話たち
大きな口から溜息…なのだろうが、風となった吐息の中に、雷光が見えた。
ドラゴンの前足ならぬ翼が羽ばたき、
「っ!」
少年は一瞬。
自分の体のすべてが。
呼吸、心臓の鼓動、脳の働き…血流、昨日の全てが停止した錯覚を覚えた。
それは死に近いもの……というより、〝死〟なのだろうか。
目を通して見える世界は黒だった。
漆黒の、世界だった。
――しかし、不安も恐怖も束の間。
すぐに時間は、戻ってくる。
「…あ…?」
音と声と、緊迫したその場所で。
〝声〟を出して、自分がそこに居ることを確認して。
粉塵が舞う、人の叫びが途絶えぬ、戦場で。
「ドラグーンだ!」
そう叫ぶ、声が聴こえた。
しかし、その声が、言葉が重なり合うよりも早く。
ドラゴンの姿が、すぐ目の前に迫ったかと思うと、
「……?」
気づいたら、喧騒も何もない、平和な空にいた。
ドラゴンの翼の羽ばたく音と、頬を撫でる柔らかい風。
「わっ…わ―――?」
地上だと、あんなにも遠くて、触れられないと思った空が、こんなにも近くに。
いや、近くじゃない。
自分は今、青の世界の中にいる。
鳥と同じ目線で、地上を見下ろしている。
翼を持たぬ人間が掴むことができない、唯一の自由に。
ただただ、感動でいっぱいだった。
「…すごいっ」
きっと、きっとこんな人間は、今までいなかっただろう。
父のように、国を治める王もかっこいいと思った。
しかし今の方が。
ずっとずっと、かっこいい。
ドラゴンに乗れたなんて、そんなの夢物語か何かじゃないか、と笑われるかもしれないけど。
信じない奴はそれでいい。
国に帰ったらいろんな人に話して回ろう。
初めて触れるドラゴンの体。
細かい鱗でもたくさん並んでいるのか、表面はざらざらとしていた。
ちょっと触っただけでもわかる、すごく硬そうな体。
でも温かいと思った。
人でもドラゴンでも、温もりの暖かいのが、やっぱり一番いいに決まってる。
「……」
ふと下界を見下ろすと、そこは相変わらずの、人、剣、血……そこまで目が見えるとか低空ではないが、つまりは戦。
血みどろのそれは、仕事として割り切るなら。
男の道の一つとしては、生き残れば、勝てば出世。
位を持たない捨て駒としての兵でも、その才能を認められれば位が上がる可能性がある。
名誉だって、土地だって、金だってなんだって手に入る……もっともこの戦は、どういうものかわからないけれど。
でも赤い軍服の側近の人が言ってた、「ネイルの化け物」。
もしかするとそれを倒すと……?
いや、でもここから見ても、それらしきものはない。
範囲が狭いから大体は見渡せるが…人の波。
化け物と言うあたり大きくて…。
『戦争なんて真っ平ごめんよ』
――――突如脳内に響いた母の言葉に、どこか気分が冷めた。
つい数分前まで、自分はあの地上世界にいた。
母の言葉が聴こえても、父と同じように否定した。
観客として眺めるようになってしまった今でも「仕方ない」という気持ちはどこかにある。
「(…けど…)」
あまり進んでするものじゃないかも。
その時になってみないとわからないけれど、……部下を殺すなんてマネは、出来れば自分はしたくない。
『……お前は見たところ…北の国の王子か』
「そうだよ。ここほど荒野じゃないけどね。あそこ、岩山しかない」
もう少し北へ行けば雪山が見えるらしいけど。
つまらないところさ、とは直接言わなかったけどそんな風な感じでドラゴンに言葉を返し、
「きみの故郷(くに)は?」
『………』
「…言いたくないならそれでいいけど」
ドラゴンの国ってどんな感じだろ、……勝手に想像しながら。
そういえば、興味の冷めた「怪物」という言葉を思い出した。
怪物……。
「!」
まさかコ
『…王子と言うなら、次期国王か。一つ確認がある。例え小さかろうと……お前は他国と闘う意志があるか?』
話を替えたような、「王家」関連で戻したような。
心中に響いてきたその声に、「怪物」問題はどうでもよくなった。
「…………。攻められる前に、攻めるかも」
ま、実際は本当に、王になってみなければわからないが。
でも気持ちはそうだ。
自ら進んではやらないけれど、どうせやるのなら、攻められて国民が傷つく前だ。
一般市民までも兵隊に連れ込む真似はしない。
持てる軍団が多かったら、大きかったら市民を守る部隊をつくる。
市民の被害は少しでも少ない方がいいから。
「…ねぇ、どうやって騎士十字勲章をもらったの?」
そのために。
少しでも偉くなるために、偉大な王になるために。
一応訊いておこう。
『――――を制した』
「え?」
肝心のところは、ドラゴンの翼が強く羽ばたいたせいか、心で聞けるはずなのに、……聴こえなかった。
『……意志があるのなら、長く時間を置いてでも強くなれ。強くなるために犠牲はつきものだ。お前が変わることで泣く者もいるだろうが、全て忘れて考えるな。ただひとつ、見下さなければいい』
それはまるで父のことを指しているような。
父自身が、言い訳として、逃れ文句として言っているようなそんな感じで聴こえた。
『人と云う山の頂に立ち、本当の意味で“国を治める”事ができたら……』
「――できたら、完了?」
……なんだ、人の山とかそんな迂遠な言葉並べてて、結局言ってることは同じだ。
努力さえすれば、成功の道は拓ける……だけどさ人間、そうそう努力を続けられないものだって。
だって努力ってさ、苦しくて、辛くて、
『違う』
考えていたことを全否定するかのように強く心に響いた、その2文字。
直後ドラゴンの首が立ち、頭が天を向き。
空を裂くかのような嘶きがその場に響いた。
空に飛び立つのが一瞬だったからか、それとも空を見ている余裕がないのか、地上を飛び立ってからというものの、こうして話している最中も。
人々がこちらに向く気配はそれまでなかった。
…しかし今は。
多くの者が、手を止め、こちらを見上げている。
再び地上へと顔を向けたドラゴンの顔を横から見ていて。
赤い目が細くなったのがわかった。
『もう1つ……いいことを教えてやろう』
「……?」
翼を前でたたむかのように、翼の先にある棘のような爪の、鋭く尖った先を合わせる。
ゆっくりと離していくと……その間に、燃え盛る火の玉が現れた。
炎が燃えながら混ざり合うことで、赤は赤でもいろんな赤色に染まりながら、その外円をぱちぱちと火花が走る。
合わせていた先を離していくたびに、その隙間の空間が広がるたびに、火の玉は、今や「球」……。
広大な宇宙から世界を明るく照らす太陽とは、こんなものなのかと頭の隅で数分考えて。
「……」
地上に落下していくそれを、ああ綺麗だなと眺……
『戦で勝利を得たければ、覚えておけ。〝空を制する者が戦場を制する〟のだ――――――――』
平和的な思考は、次の瞬間にばちりと消えた。
ドラゴンの言葉がした数秒後。
火の球が地上を引き裂いた。
大地は揺れ、炎の海が地上を包み、空までも強い爆風が届いた。
火の粉混じりのそれは、こちらへ届く前にドラゴンが回避してしまったけれど。
「…………」
落下して、どういう訳か知らないけどそのまま地上で爆発して燃えればいいのに、わざわざ地底にまで入り込んで地震を起こした球……それらが地上を燃えつくすのは、風を起こしたのは数秒で終わった。
大地への侵入は、空からでも見てわかる、ぱっくりと地面を切ったかのような割れ目でわかった。
「………」
戦なんて全然かっこよくない。
すごくない。
部下を叱咤した上に、その命まで奪ったあの男も怖かったけど。
なんて魔法を使うんだ、このドラゴン。
込み上げてきた恐怖に手足が震える。
「……そ、そらを……せいすって……?」
それでも口から出てきたのは、全く違う質問だった。
するとひと吹き、どこからか吹いてきた優しい風が少年の髪を攫い、ドラゴンの頭が…顔がこちらを向いた。
人じゃないからわからないが、向けられた眼差しが優しくな…ったような気がし、口を閉じたその様が「微笑んだ」気がしたので……ああ、軽く笑顔でかわされたんだなとわかった。
空を制する……おそらく、騎士十字勲章もこんな風な戦い方をしたから貰ったのだろう。
無敗の人間に与えられると聞いたことがある。
無敗…即ち、優れた戦闘能力を持つ人間……。
人にできぬ戦い方をするドラゴンに与えられているそれは、ある意味ずるいんじゃないか? と思う反面、納得反面。
確かにドラゴン相手で人が勝てるわけがない。
そもそも「翼」がない自分たちには、飛ぶことなんてできない。
戦闘機か何かで飛べたとしても、たかが知れてる。
つまり勝ち目ゼロの戦だ。
自分が王になった時、絶対にこの男がいる国とは。
「(…戦いたくない。逃げ続けよ……)」
なんだか暗い国の将来に、気分がブルーになっていると。
いつのまにか前を向き、空を飛行していたドラゴンの言葉が心中に響いた。
『今のお前のままだったら力を貸す』……と。
「え?」
『民を思う王程、真の主君はいない……そのための戦なら、わたしは喜んで闘おう』
「………」
誰かを守るための戦い。
勝っても負けても、母のように悲しむ人はいるだろう。
でもそれは進んで戦をしているからだ。
最初は国民の為、と言っていたのに、勝ち続けてきたために調子に乗った父は、自分の国を大きくすることだけを考えるようになってしまった。
その方が国民も豊かな生活ができると、…しかし実際のところ本当の声を聞くと、国民自身はあまりそれを望んでいないらしい。
寧ろ、警備だとなんだと言って、普通に町の中を軍人が歩いていることに、軍事国家となりつつある国に、嫌気がさしているようだった。
確かに自分も、軍人だからと誇張して、市民を好き勝手に扱う兵士に疑問を持っていた。
……ようし。
いっそのこと、自分が王になったら、ものすごく弱い国にしよう。
いや、寧ろ国より村。
村づくりを目指そう。
民を守るためには、軍隊も大きくしなきゃ、とは思ったけどそれじゃあ結局、父王と同じだ。
最低限国民を守るために強くなればいい。
ドラゴンには悪いけど、
「別にいいよ。そこまで強くなるつもりないから」
……
…
ドラゴンの前足ならぬ翼が羽ばたき、
「っ!」
少年は一瞬。
自分の体のすべてが。
呼吸、心臓の鼓動、脳の働き…血流、昨日の全てが停止した錯覚を覚えた。
それは死に近いもの……というより、〝死〟なのだろうか。
目を通して見える世界は黒だった。
漆黒の、世界だった。
――しかし、不安も恐怖も束の間。
すぐに時間は、戻ってくる。
「…あ…?」
音と声と、緊迫したその場所で。
〝声〟を出して、自分がそこに居ることを確認して。
粉塵が舞う、人の叫びが途絶えぬ、戦場で。
「ドラグーンだ!」
そう叫ぶ、声が聴こえた。
しかし、その声が、言葉が重なり合うよりも早く。
ドラゴンの姿が、すぐ目の前に迫ったかと思うと、
「……?」
気づいたら、喧騒も何もない、平和な空にいた。
ドラゴンの翼の羽ばたく音と、頬を撫でる柔らかい風。
「わっ…わ―――?」
地上だと、あんなにも遠くて、触れられないと思った空が、こんなにも近くに。
いや、近くじゃない。
自分は今、青の世界の中にいる。
鳥と同じ目線で、地上を見下ろしている。
翼を持たぬ人間が掴むことができない、唯一の自由に。
ただただ、感動でいっぱいだった。
「…すごいっ」
きっと、きっとこんな人間は、今までいなかっただろう。
父のように、国を治める王もかっこいいと思った。
しかし今の方が。
ずっとずっと、かっこいい。
ドラゴンに乗れたなんて、そんなの夢物語か何かじゃないか、と笑われるかもしれないけど。
信じない奴はそれでいい。
国に帰ったらいろんな人に話して回ろう。
初めて触れるドラゴンの体。
細かい鱗でもたくさん並んでいるのか、表面はざらざらとしていた。
ちょっと触っただけでもわかる、すごく硬そうな体。
でも温かいと思った。
人でもドラゴンでも、温もりの暖かいのが、やっぱり一番いいに決まってる。
「……」
ふと下界を見下ろすと、そこは相変わらずの、人、剣、血……そこまで目が見えるとか低空ではないが、つまりは戦。
血みどろのそれは、仕事として割り切るなら。
男の道の一つとしては、生き残れば、勝てば出世。
位を持たない捨て駒としての兵でも、その才能を認められれば位が上がる可能性がある。
名誉だって、土地だって、金だってなんだって手に入る……もっともこの戦は、どういうものかわからないけれど。
でも赤い軍服の側近の人が言ってた、「ネイルの化け物」。
もしかするとそれを倒すと……?
いや、でもここから見ても、それらしきものはない。
範囲が狭いから大体は見渡せるが…人の波。
化け物と言うあたり大きくて…。
『戦争なんて真っ平ごめんよ』
――――突如脳内に響いた母の言葉に、どこか気分が冷めた。
つい数分前まで、自分はあの地上世界にいた。
母の言葉が聴こえても、父と同じように否定した。
観客として眺めるようになってしまった今でも「仕方ない」という気持ちはどこかにある。
「(…けど…)」
あまり進んでするものじゃないかも。
その時になってみないとわからないけれど、……部下を殺すなんてマネは、出来れば自分はしたくない。
『……お前は見たところ…北の国の王子か』
「そうだよ。ここほど荒野じゃないけどね。あそこ、岩山しかない」
もう少し北へ行けば雪山が見えるらしいけど。
つまらないところさ、とは直接言わなかったけどそんな風な感じでドラゴンに言葉を返し、
「きみの故郷(くに)は?」
『………』
「…言いたくないならそれでいいけど」
ドラゴンの国ってどんな感じだろ、……勝手に想像しながら。
そういえば、興味の冷めた「怪物」という言葉を思い出した。
怪物……。
「!」
まさかコ
『…王子と言うなら、次期国王か。一つ確認がある。例え小さかろうと……お前は他国と闘う意志があるか?』
話を替えたような、「王家」関連で戻したような。
心中に響いてきたその声に、「怪物」問題はどうでもよくなった。
「…………。攻められる前に、攻めるかも」
ま、実際は本当に、王になってみなければわからないが。
でも気持ちはそうだ。
自ら進んではやらないけれど、どうせやるのなら、攻められて国民が傷つく前だ。
一般市民までも兵隊に連れ込む真似はしない。
持てる軍団が多かったら、大きかったら市民を守る部隊をつくる。
市民の被害は少しでも少ない方がいいから。
「…ねぇ、どうやって騎士十字勲章をもらったの?」
そのために。
少しでも偉くなるために、偉大な王になるために。
一応訊いておこう。
『――――を制した』
「え?」
肝心のところは、ドラゴンの翼が強く羽ばたいたせいか、心で聞けるはずなのに、……聴こえなかった。
『……意志があるのなら、長く時間を置いてでも強くなれ。強くなるために犠牲はつきものだ。お前が変わることで泣く者もいるだろうが、全て忘れて考えるな。ただひとつ、見下さなければいい』
それはまるで父のことを指しているような。
父自身が、言い訳として、逃れ文句として言っているようなそんな感じで聴こえた。
『人と云う山の頂に立ち、本当の意味で“国を治める”事ができたら……』
「――できたら、完了?」
……なんだ、人の山とかそんな迂遠な言葉並べてて、結局言ってることは同じだ。
努力さえすれば、成功の道は拓ける……だけどさ人間、そうそう努力を続けられないものだって。
だって努力ってさ、苦しくて、辛くて、
『違う』
考えていたことを全否定するかのように強く心に響いた、その2文字。
直後ドラゴンの首が立ち、頭が天を向き。
空を裂くかのような嘶きがその場に響いた。
空に飛び立つのが一瞬だったからか、それとも空を見ている余裕がないのか、地上を飛び立ってからというものの、こうして話している最中も。
人々がこちらに向く気配はそれまでなかった。
…しかし今は。
多くの者が、手を止め、こちらを見上げている。
再び地上へと顔を向けたドラゴンの顔を横から見ていて。
赤い目が細くなったのがわかった。
『もう1つ……いいことを教えてやろう』
「……?」
翼を前でたたむかのように、翼の先にある棘のような爪の、鋭く尖った先を合わせる。
ゆっくりと離していくと……その間に、燃え盛る火の玉が現れた。
炎が燃えながら混ざり合うことで、赤は赤でもいろんな赤色に染まりながら、その外円をぱちぱちと火花が走る。
合わせていた先を離していくたびに、その隙間の空間が広がるたびに、火の玉は、今や「球」……。
広大な宇宙から世界を明るく照らす太陽とは、こんなものなのかと頭の隅で数分考えて。
「……」
地上に落下していくそれを、ああ綺麗だなと眺……
『戦で勝利を得たければ、覚えておけ。〝空を制する者が戦場を制する〟のだ――――――――』
平和的な思考は、次の瞬間にばちりと消えた。
ドラゴンの言葉がした数秒後。
火の球が地上を引き裂いた。
大地は揺れ、炎の海が地上を包み、空までも強い爆風が届いた。
火の粉混じりのそれは、こちらへ届く前にドラゴンが回避してしまったけれど。
「…………」
落下して、どういう訳か知らないけどそのまま地上で爆発して燃えればいいのに、わざわざ地底にまで入り込んで地震を起こした球……それらが地上を燃えつくすのは、風を起こしたのは数秒で終わった。
大地への侵入は、空からでも見てわかる、ぱっくりと地面を切ったかのような割れ目でわかった。
「………」
戦なんて全然かっこよくない。
すごくない。
部下を叱咤した上に、その命まで奪ったあの男も怖かったけど。
なんて魔法を使うんだ、このドラゴン。
込み上げてきた恐怖に手足が震える。
「……そ、そらを……せいすって……?」
それでも口から出てきたのは、全く違う質問だった。
するとひと吹き、どこからか吹いてきた優しい風が少年の髪を攫い、ドラゴンの頭が…顔がこちらを向いた。
人じゃないからわからないが、向けられた眼差しが優しくな…ったような気がし、口を閉じたその様が「微笑んだ」気がしたので……ああ、軽く笑顔でかわされたんだなとわかった。
空を制する……おそらく、騎士十字勲章もこんな風な戦い方をしたから貰ったのだろう。
無敗の人間に与えられると聞いたことがある。
無敗…即ち、優れた戦闘能力を持つ人間……。
人にできぬ戦い方をするドラゴンに与えられているそれは、ある意味ずるいんじゃないか? と思う反面、納得反面。
確かにドラゴン相手で人が勝てるわけがない。
そもそも「翼」がない自分たちには、飛ぶことなんてできない。
戦闘機か何かで飛べたとしても、たかが知れてる。
つまり勝ち目ゼロの戦だ。
自分が王になった時、絶対にこの男がいる国とは。
「(…戦いたくない。逃げ続けよ……)」
なんだか暗い国の将来に、気分がブルーになっていると。
いつのまにか前を向き、空を飛行していたドラゴンの言葉が心中に響いた。
『今のお前のままだったら力を貸す』……と。
「え?」
『民を思う王程、真の主君はいない……そのための戦なら、わたしは喜んで闘おう』
「………」
誰かを守るための戦い。
勝っても負けても、母のように悲しむ人はいるだろう。
でもそれは進んで戦をしているからだ。
最初は国民の為、と言っていたのに、勝ち続けてきたために調子に乗った父は、自分の国を大きくすることだけを考えるようになってしまった。
その方が国民も豊かな生活ができると、…しかし実際のところ本当の声を聞くと、国民自身はあまりそれを望んでいないらしい。
寧ろ、警備だとなんだと言って、普通に町の中を軍人が歩いていることに、軍事国家となりつつある国に、嫌気がさしているようだった。
確かに自分も、軍人だからと誇張して、市民を好き勝手に扱う兵士に疑問を持っていた。
……ようし。
いっそのこと、自分が王になったら、ものすごく弱い国にしよう。
いや、寧ろ国より村。
村づくりを目指そう。
民を守るためには、軍隊も大きくしなきゃ、とは思ったけどそれじゃあ結局、父王と同じだ。
最低限国民を守るために強くなればいい。
ドラゴンには悪いけど、
「別にいいよ。そこまで強くなるつもりないから」
……
…