いろんなお話たち
■
パソコンを中断し、何気なく引き出しを開けた時。
私はそれを発見した。
やや奥の方にあるそれを覗き見てから、取り出す。
両先が細いガラス瓶。
青半透明色をしたその瓶の中には赤い液体が入っていた。
傾けるとその方向に流れる。
こんなもの、机の中に入れた記憶はない。
そもそもこれは。
「(久登さんかクラウスさん……?)」
二人のどちらかが所持していた筈だから、こんなところにあるのはおかしいだろう。
置き土産みたいなものだろうか?
どちらにしろ、あの時は触れてはいけないものだったが、今、それを咎める者はここにはいない。
寧ろ良いということだろう。
勝手にそう解釈した私は、太股で挟んで瓶を固定して、左手で蓋を抜き取った。
しゅぽんと音がする。
蓋を机の上に置いて、瓶を掴む。
酸味のとても強い臭い。
一口味見したらそれで満足だから、一口だけ。
そうは思ったが、片手ではクラウスさんみたいに片方の掌に滴を落として舐めるなんてことが出来ない。
結局面倒なので瓶から直接飲むことにした。
「(ちょっと……ちょっとだけ……)」
顔を上に向けて瓶を傾ける。
赤い液体は血を連想させて、しかも臭いがきついので心なしか、手が震えた。
瓶口から赤い液体が線を引いて落下する。
舌に雫が落ちる、そのまま何滴か嚥下したが何の味もしなかった。
顔を戻し蓋を填める。
「――…っ!」
直後、どくんと心臓が強く震えた。
机の上にある手鏡に自分の顔を映す、朽葉色の髪に小豆色の瞳。
2人のような派手派手な変化じゃなかった、いやもしかしたら服用する度に変わるのかも。
鏡を置いて、ふぅと息を吐く。
なぜか吐息が熱かった。
「………?」
足のつま先からぽかぽかとあったかい気が上昇してくるようだった。
意識すると体の中心に熱い炎が灯るような気がして一気に体が熱くなり。
胸がドキドキとしてる。
下腹部の下が疼く。
呼吸のリズムが、自然、浅く、
「な……に、これ……」
変な気分だ。
胸の先端がちりちりと痛むような張りつめるような。
胸の奥で何かが擡頭する、クラウスさんと久登さんの制止の声を思いだしたとき、切ないようなやるせない感情に心が締め付けられた。
はがゆい。
私ひとり。
どうしてかそう思った時には、もう行動していた。
動く左手を服の中に入れて、肌を撫ぜて。
下着の上から胸を、
「――やっ、」
鷲掴むようにしたことに自分で驚いて、慌てて手を引き抜く。
何してるの私。
妙な気は散らさねば。
急いで机から離れて、パソコンの前の椅子に座りなおし、マウスを繰る。
開いていたサイトは、久々に連絡を受けた学校の先生から教えて貰った入所施設の紹介ページだった。
林檎ちゃんの用が済んで、またひきこもるのも嫌なので、次はここへ行こうと思って見ていた。
けど――違う。
私が求めているのはこんなんじゃ、
「(な……やだやだ、なんでっ……)」
左足を右足に擦り寄せるようにしながら、マウスで新たに開いたのは見たこともないアダルトサイトだった。
こんなの今まで見たこともない。
大型掲示板で不特定多数の住人とお喋りしてたとき、まだなんの知識もないときに荒らしのレスに誘導されて開いたサイトがある。
ブラクラと呼ばれるそれは直接パソコンにウイルスを送り込むのよりもあの頃はまだ、グロテスクな画像だったりアダルトサイトが多かったりしたものだ。
女の人のはだか。
違う。
きもちわるい。
男の人のはだか。
きもちわるい。
けど――ああ、けど、こんな大きなモノで、
「う………おえええっ」
頭の隅に残った冷静さが訴えた吐き気が込み上げ、口元に片手を添えるも、何も出ずに終わった(出ても困るけど)。
画面に映る男性のある部分を見ると臍の下がきゅんとなる。
どうして。
怖いっ……。
だけど。
「(おかー、さん……居なくて……ヨカッタ)」
どこに安堵しているのか。
きょろきょろとあたりを見回して、半分だけ閉じられた窓のカーテンが気になったけれど。
ほぼ無意識に、私は。
トイレする時みたいに左手でジンズのボタンをはずしファスナーを下げ。
けれど下着を脱ぐことまでは面倒で、そのまま手を中に突っ込んだ。
なんて。
なんて汚いところを私は触ってるんだ。
どこがいいのかわからない、だって初めてだから、けど、とにかくこの疼きをなんとかしたくて。
下着の中は、肌は、ぬるぬるとしていた。
気持ち悪い。
気持ちと相反する私の手は。
指は、自然と熱いそこへ沈み、突起に触れた。
ぷっくりとしたそこを触るのは初めてで、そもそもなんなのかわからなくて。
でも画面の向こうの男性を見ながら、この人に触ってもらってるイメージでそこを刺激した。
バカみたいだ。
好きな相手でもないのに。
「っ……、」
そうして。
数分と経たないうちに、その時は訪れた。
指で刺激するそこから上へ稲妻が体中を駆け巡って。
足の指先がぴくぴくと震えて。
頭が真っ白に――。
「っ、は……はぁっ……はぁっ……。あたしの、……ばか……」
キーボードとかマウスをどかすのが面倒でその上に頭を突っ伏す。
不思議と満たされてる心に訳がわからず。
指を引き抜いたけど、それから何もできずにただだらんと体の横に手を下げて。
『だから、仰ったではありませんか』
頭の中に響く幻聴におとなしく目を閉じる。
おそらく。
犯人はあの人だ。
ああ、まったくもうどうして。
「………」
してやられたよ、クラウスさん。
パソコンを中断し、何気なく引き出しを開けた時。
私はそれを発見した。
やや奥の方にあるそれを覗き見てから、取り出す。
両先が細いガラス瓶。
青半透明色をしたその瓶の中には赤い液体が入っていた。
傾けるとその方向に流れる。
こんなもの、机の中に入れた記憶はない。
そもそもこれは。
「(久登さんかクラウスさん……?)」
二人のどちらかが所持していた筈だから、こんなところにあるのはおかしいだろう。
置き土産みたいなものだろうか?
どちらにしろ、あの時は触れてはいけないものだったが、今、それを咎める者はここにはいない。
寧ろ良いということだろう。
勝手にそう解釈した私は、太股で挟んで瓶を固定して、左手で蓋を抜き取った。
しゅぽんと音がする。
蓋を机の上に置いて、瓶を掴む。
酸味のとても強い臭い。
一口味見したらそれで満足だから、一口だけ。
そうは思ったが、片手ではクラウスさんみたいに片方の掌に滴を落として舐めるなんてことが出来ない。
結局面倒なので瓶から直接飲むことにした。
「(ちょっと……ちょっとだけ……)」
顔を上に向けて瓶を傾ける。
赤い液体は血を連想させて、しかも臭いがきついので心なしか、手が震えた。
瓶口から赤い液体が線を引いて落下する。
舌に雫が落ちる、そのまま何滴か嚥下したが何の味もしなかった。
顔を戻し蓋を填める。
「――…っ!」
直後、どくんと心臓が強く震えた。
机の上にある手鏡に自分の顔を映す、朽葉色の髪に小豆色の瞳。
2人のような派手派手な変化じゃなかった、いやもしかしたら服用する度に変わるのかも。
鏡を置いて、ふぅと息を吐く。
なぜか吐息が熱かった。
「………?」
足のつま先からぽかぽかとあったかい気が上昇してくるようだった。
意識すると体の中心に熱い炎が灯るような気がして一気に体が熱くなり。
胸がドキドキとしてる。
下腹部の下が疼く。
呼吸のリズムが、自然、浅く、
「な……に、これ……」
変な気分だ。
胸の先端がちりちりと痛むような張りつめるような。
胸の奥で何かが擡頭する、クラウスさんと久登さんの制止の声を思いだしたとき、切ないようなやるせない感情に心が締め付けられた。
はがゆい。
私ひとり。
どうしてかそう思った時には、もう行動していた。
動く左手を服の中に入れて、肌を撫ぜて。
下着の上から胸を、
「――やっ、」
鷲掴むようにしたことに自分で驚いて、慌てて手を引き抜く。
何してるの私。
妙な気は散らさねば。
急いで机から離れて、パソコンの前の椅子に座りなおし、マウスを繰る。
開いていたサイトは、久々に連絡を受けた学校の先生から教えて貰った入所施設の紹介ページだった。
林檎ちゃんの用が済んで、またひきこもるのも嫌なので、次はここへ行こうと思って見ていた。
けど――違う。
私が求めているのはこんなんじゃ、
「(な……やだやだ、なんでっ……)」
左足を右足に擦り寄せるようにしながら、マウスで新たに開いたのは見たこともないアダルトサイトだった。
こんなの今まで見たこともない。
大型掲示板で不特定多数の住人とお喋りしてたとき、まだなんの知識もないときに荒らしのレスに誘導されて開いたサイトがある。
ブラクラと呼ばれるそれは直接パソコンにウイルスを送り込むのよりもあの頃はまだ、グロテスクな画像だったりアダルトサイトが多かったりしたものだ。
女の人のはだか。
違う。
きもちわるい。
男の人のはだか。
きもちわるい。
けど――ああ、けど、こんな大きなモノで、
「う………おえええっ」
頭の隅に残った冷静さが訴えた吐き気が込み上げ、口元に片手を添えるも、何も出ずに終わった(出ても困るけど)。
画面に映る男性のある部分を見ると臍の下がきゅんとなる。
どうして。
怖いっ……。
だけど。
「(おかー、さん……居なくて……ヨカッタ)」
どこに安堵しているのか。
きょろきょろとあたりを見回して、半分だけ閉じられた窓のカーテンが気になったけれど。
ほぼ無意識に、私は。
トイレする時みたいに左手でジンズのボタンをはずしファスナーを下げ。
けれど下着を脱ぐことまでは面倒で、そのまま手を中に突っ込んだ。
なんて。
なんて汚いところを私は触ってるんだ。
どこがいいのかわからない、だって初めてだから、けど、とにかくこの疼きをなんとかしたくて。
下着の中は、肌は、ぬるぬるとしていた。
気持ち悪い。
気持ちと相反する私の手は。
指は、自然と熱いそこへ沈み、突起に触れた。
ぷっくりとしたそこを触るのは初めてで、そもそもなんなのかわからなくて。
でも画面の向こうの男性を見ながら、この人に触ってもらってるイメージでそこを刺激した。
バカみたいだ。
好きな相手でもないのに。
「っ……、」
そうして。
数分と経たないうちに、その時は訪れた。
指で刺激するそこから上へ稲妻が体中を駆け巡って。
足の指先がぴくぴくと震えて。
頭が真っ白に――。
「っ、は……はぁっ……はぁっ……。あたしの、……ばか……」
キーボードとかマウスをどかすのが面倒でその上に頭を突っ伏す。
不思議と満たされてる心に訳がわからず。
指を引き抜いたけど、それから何もできずにただだらんと体の横に手を下げて。
『だから、仰ったではありませんか』
頭の中に響く幻聴におとなしく目を閉じる。
おそらく。
犯人はあの人だ。
ああ、まったくもうどうして。
「………」
してやられたよ、クラウスさん。