いろんなお話たち

リディア様を守る騎士(ナイト)は2人。
イルクさん、フロラン。
フロラン……は、思えばどうしてリディア様を守っているんだろう?
短い青緑の短髪。
童顔の彼は、女嫌いで有名だった。
城内では結構人気だけどそれを理由に諦めてるメイド多数。
口を開けば女性の悪口ばかり。
でも背中に担ぐ大剣の実力は確か。
その実力を買ったのか?
リディア様に問うと、女の敵! と言う私に彼女は優しく笑って、
「そんなことないよ。優しいよ。フロランくんは」
そう言った。
もう一人のイルクさんは……。
「何してるんですか?」
窓ガラスを拭く手が何度も止まることに私自身気づき、なんだか今日は仕事の気分じゃないなぁと落ち込んでいたらそんな声がかかった。
「貴女、ただでさえノロマなのに、そんなことしてたら余計遅れますよ?」
年下は年下。
ちゃんと目上の人に敬語を使うのは一応わかっているらしいけど。
馬鹿にしたように蔑むその目。
口端だけを吊り上げる唇。
心がモヤモヤしてる時に会いたくない人物ナンバー1!
全く今日はどうしてこんなにも…。
「………」
そういえばさっきこの人、リディア様と一緒に中庭にいたな。
何話していたんだろう? 聞いてみようか。
でも素直に教えてくれるかな。
「…なんですか? 言っときますけど僕の貴重な時間を貴女なんかのために使いたくないので、お願いされても手伝いませんからね」
短く「手伝えない!」でいいのに。
こんな遠回しな言い方するなんて。
……いつもながら、失礼な人……。
「……。さっき、中庭で、何話してたの?」
問うと、少しだけ目を見開いた(気がする…)フロランは、こちらの目を見ずに、
「……見たんですか」
「内容までは…聞いてないわよ?」
「……」
「…別に、話したくないならそれでいいけど」
後でリディア様に聞いてもいいし。
…何となく内容は想像がつく。
「「明日で私を護るのは最後にしてください」…リディア様が僕たちにそう言ったんです。まぁ事実上のクビですよね。イルクさんは納得してないみたいですけど」
「……そう」
あなたは納得したのか。
それってやっぱりリディア様への忠誠心が低いってこと?
まぁいろいろ気になったけど、…納得してない…か。
……イルクさん……。
そうか、そうだよね、イルクさんは…そうなんだよね。
「……」
それにしてもリディア様。
早すぎますよ。
まだ明後日のことじゃないですか…。
「驚かないんですね」
「あなたの女嫌いは有名だから、いつか辞めるとは思ってたわ」
「そうですか」
にっこり笑う彼に、私の心はモヤモヤする。
うーん…私が例えリディア様の立場だったとしても、こんな人を傍に置いておきたくはないけどなぁ。
「ヴァニラ」
「!」
気にせず窓ガラスを拭こうと上げた手が止まる。
その声に、私の中の全神経が集中して。
「イ…イルクさん」
後ろで束ねた長髪。
髪色と同じ銀の瞳。
目が合うだけで、私の胸は高鳴る。
「仕事中にごめんな。話があるんだけど…いいか?」
なんとなくわかる。
彼が話したいことは多分…リディア様のこと。
解っている私の胸は痛む。
ときめきの高鳴りから、悲しみの高鳴りでドクドク胸打つ。
けど…話かけてくれるだけで嬉しい。
そう思えて、
「はい」
私の顔は自然と笑顔になる。
「……」
ふ、とフロランに見られている気がして、彼を見るとフロランは私を見て、フッ…と笑って、
「……だから嫌いなんですよ、女性は。男への態度がコロコロ変わる…」
私の横をすぎる際、声をひそめて言った言葉。
ムッ…としたのもつかの間。
「どうした?」
「あっ…いえ、なんでもないです」
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