いろんなお話たち
イルクさんは私の好きな人。
リディア様にお仕え…し始めるよりもずっと前から。
好きだった。
リディア様の隣にいた人。
リディア様の傍にいた人。
見かけることは多かった。
何度か見かけたのち……好きになった。
一目ぼれだ。
リディア様にお仕えするようになって、会う機会は多くなって。
嬉しくなった半面……気付いたことがある。
イルクさんは、リディア様が好き。
いつもその横顔を見ていた。
私が、いつもイルクさんを見ているのと同じく。
……完全な、片思いだ。
まぁ、頑張るつもりなんてないけどね。
今は……見ているだけでいい。
何度か辛かったけれど、今は。
今は本当に、そう思うから。
「…その、リディアのことで」
場所を替えて、中庭。
イルクさんは私に背を向けて、空を見ている。
「フロランに聞きました。いきなりクビになったんですって?」
答えると、振り返ったイルクさんが真剣な顔で、
「何か聞いてないかな?」
「……すみません」
頭を下げた。
言えない。
言えるわけがない。
イルクさんの気持ちはわかる。
痛いほどわかる。
泣きたいほどわかる……。
でも、私は、言えないから。
言える立場じゃないから。
「ごめんなさい…。私も、今朝、言われたんです」
泣きそうな顔になってしまったからか、イルクさんは、
「……そうか」
もう、それ以上、聞いてくることはなかった。
「……一体どうしたんだ…リディア……」
「…………」
イルクさんのつぶやきに、私は無言。
辛かった。