CROW

13:加奈

「う……」

 しばしばと瞬いて目を開けた時、一瞬加奈は自分がどこにいるのか分からなかった。

 ぐらぐらする頭をそのままに、周囲を見渡す。

 天井は白くて。

 ちょっと先にダイニングが見える。

 ああ、ここは自分の家の居間だと気づいて、ゆっくりと肘で身体を起こした。

 ソファに転がっていたようだ。

 しかし、周囲に誰もいない。

 あたし。

 自分が、どこからこんな風になったか、思い出そうとした。

 九郎が逃げて。

 それから、あの男がきて。

 そして。

 点火されるように、加奈はボンッと赤くなった。

 気づくと、自分のものではないコートが、毛布がわりにかけられている。

 加奈は困ったまま、コートを持ち上げた。

 グレイのロングコート。

『YOKO』のブランド・マーク入りだ。

 誰の持ち物なのか、いまはちょっと考えたくなかった。

 しかし、これが彼女にかけてあるということは、あの男は、寒い中に寒い格好で出て行ったのか。

 まさか。

 加奈はソファから起き上がって、何かないかと探した。

 置手紙もない。

 コート以外、何もない。

 時計を見ると、もう十時を回っている。

 どうやら、気を失ったついでに、ぐっすり眠り込んでしまったようだ。

 ここしばらく、夜更かしばかりしていたせいで、疲労がたまっていたのだろう。

 キョロキョロする自分に、はっとした。

 いない方が、好都合じゃないか、と。

 何で、彼を探そうとしているのか。

 そんな時。

 どこかで、ギャーとわめき声がした。

 あの声は――

 居間を出て、作業場へ直行する。

 ドアをガンと開けると、銀の鳥かごはまだそこにぶら下がっていた。

 中で、黒い鳥がきょとんと加奈を見ている。

 その横には。

「ああ、起きたか?」

 夢じゃ。

 夢じゃなかった、やっぱり。

 加奈は、その低い声にがっくりと肩を落とした。

 次の瞬間、片腕が支えるように取られていて、その上に引っ張り上げるような力に、彼女はえっと顔を上げる。

 心配そうな義経の表情が、安堵に変わった。

「また、気ぃ失ったかと思っただろ……やれやれ」

 眉が、困ったみたいになるのは、珍しい表情だ。

 腕は放してくれたが、そのままぽんと、加奈の頭に載せられる。

「あんまり、寝てねぇだろ……服ばっかり作って」

 ぶっ倒れた後、青い顔で死んだみたいに眠ってたぞ。ほどほどに、休めよ。

 ぽんぽん。

 大きな手のひらが、年上ぶって加奈の頭を叩く。

 むっとしたのは、彼女だ。

 その、子供相手みたいな態度のせいじゃない。

 そうじゃなくて。

「一体、誰のせいだと……!」

 言って、しまったと自分の口をふさいでも、もう遅かった。

 頭の上の手が――ぴたりと止まる。

 怪訝そのものの動きだ。

 それから、顔がぐんと加奈の目の高さまで、一気に降りてくる。

「誰の……せい?」

 うわぁぁぁ――のぞきこむな!

 首をすくめて、加奈はその顔から二歩後方に後ずさった。

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