‐天統べる仙鳥の皇国‐
その声に応えたのは、あの忌まわしき布衣姿の者の1人だった。


『…分かりました。あの妖鳥ククルカン達を、私の得意魔術《火焔撃球》で黒炭にして差し上げましょう…』


被っていた頭巾を肩へと下ろす…あの者も人間の女だ!


『駄目ッ!止めてジーナ!!』


あの短刀を握った弓使いの女が、急に布衣姿の女に『止めろ』と叫び出した…?


『いいから私に任せて…』

『違うのジーナ!!奴らは《天より遣われし太陽の焔鳥》だと伝承…!!』

『《焔》は同じ《焔》で掻き消すことだってできるのよ。大丈夫…』

『だから!…それができないの!!』


左手に持った木製の長杖の先で、目の前に大きくぐるりと円を描くと、そこに火の環が出現。そしてその環の中心に右手をかざした。



『くそーっ!!あの愚かな人間め!!大焔球を撃ち放つ気だぞ!!』

『うわあーっ!!止めろー!!』

『森がぁぁー!!』


薄暗い森の中が一瞬赤く激しく、落雷時に似た激しい閃光に包まれる。そして凄まじい轟音が森中に響き、樹々を震わせた。

布衣姿の女が、魔術の力で作り出し放ったその巨大焔球は、我らの仲間を巻き込みながら1本の巨樹に命中し、爆音とともにその残焔は周囲に飛び散り激しく燃えた。


『うわぁ!!巨樹が燃え出したぞー!!』


激しい閃光が止むと、3本の巨樹が豪炎の火柱と化していた。その根元には、それに巻き込まれた仲間の仙鳥が8羽ほど倒れている。

だが大丈夫だ。別に焼け死んでいるわけではない。すぐに全羽が意識を取り戻し、冷静に逃げるように飛昇する。


『えぇ!?なんで!?…あれだけの威力の業焔の魔術だったのに!?』

『ジーナ!だから私が《止めて》って言ったのよ!!』


無論ではあるが…炎の魔術を放ったその人間の女は、見ていた全ての仙鳥の怒りを買った。もうあの女は助からない…。

一斉に飛び掛かるククル達。その女は抵抗もままならず、幾つもの嘴(くちばし)に全身を突就かれ、鉤爪に生身を引き裂かれた。

…地べたに倒れたその人間の女は、人形のようにもうピクリとも動かなくなった。


『あぁ…ジーナ…ジーナ!!』


女の元に駆け寄る弓使いの女。急に駆け出して、震える手で弓矢を拾い上げ、弓を構えた。


『…炎の魔術が効かないというのなら…私が凍気狼《ヴェル・ベル》を召喚し、お前達全てを冷氷の鳥像に変えてやろうぞ…』


ヴェルベル召喚…その発言はマズかった。怒りの治まらない仙鳥達は、残った布衣姿の魔術師までも大地に屈倒させ転がした。彼ももう動かない。あっという間の出来事だった…。


『うわっ!何をする!!』
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