‐天統べる仙鳥の皇国‐
大男は鉄槌を投げ捨て、突然私を肩に担いだ。


『アルフレッド!!逃げるぞ!!』

『おう!!』


小剣の男と共に海岸を目指してひた走り出す。

だが、その逃路は直ぐに阻止された。


『…愚かな人間共よ。この島より逃げ出ずる事は構わぬ。だが、その雄鳳は置いて行ってもらおう…』

『……あ?』


人間達の目の前に現れた、立派な体格の仙獣《ツサラ=チーリン》。
仙獣の頭は大男の頭よりも上にある。大男は目線をゆっくりと上げ…そして冷たく睨みつけるチーリンと目が合った。


『聞こえなかったか…人間よ』

『…ぁ……ぁ…ぁ…』


キィィ…ィ…ン…!


甲高い、硬鋼を激しく打ち付けたような金属響音…。チーリンの喉鱗の数枚が飛び散り、キラキラと耀いて低草の上に撒かれた。

渾身の一振りで小剣を振り払った、あの小剣の男…無謀にも、チーリンの首を斬り刎ねようと試みたらしいが…。


『…くそっ』


チーリンは何事も無かったかのように、今度は小剣の男と睨み合う。


『今一度問う。雄鳳の御身を汝等の足元に置け…』


私を肩に担ぐ大男の力が一瞬緩んだ!
私はその一瞬の好機をみてバタバタと暴れ、羽ばたいて、大男の腕から逃れた。


『こら!待て!くそっ…』


大男が慌てる。
小剣の男は睨み合ったまま、今度はチーリンの喉元に刃を刺突しようと、ゆっくりと小剣を構えた。


『グァァァ…オァァー!!』


仙獣は大きく天に向かって嘶(いなな)くと、後ろ脚で立ち上がり、勢いを付けてその男を前脚で踏みつけた。

チーリンの躰がバリバリと音を立て、激しく体内の電衝を放つ。我々もあまりのその眩光に、何がどうなっているのか、それを目視することはできない。

何か聞こえる…森の深き奥から『ウォォ…ォ…』と、地を這うような老狼の唸り声のような、微かな物音…かと思った瞬間、激しい突風がバーン!と、轟音とともに森の中を吹き抜ける。

巨樹達の枝々も、その恐危の突風には逆らえないのか、枝葉を激しく波打たせた。

我々はその突風に呑み込まれないよう、地草に貼り付くかのように身を屈める。

だが仙麒チーリンは、そんな突風の中でも平然と立ち尽くし、未だに電衝の耀きを放っている。


『うわぁぁぁぁ…!』


あの大男は突風に呑まれ、亡き身となった《2つの魔術師》とともに、森の外の外…外海へと吐き出された。






巨樹を燃やし苦しませた災厄の炎は、被害を拡散することなく、あの突風に吹き消されていた。目の前に見える、漆黒色の炭樹と化した3本の巨樹。

…仙麒に踏まれたあの小剣の男の姿は…無かった。有るのは突風により散らばった白灰の燃え跡…。

そうだ!あの弓使いの女はどうなった!?やはり突風に呑まれ、外海に吐き出されたか…?
私は身を起こし、周囲を見た…!
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