君影草
「だからって言うわけじゃないんですけど、私、このまま北河さんのこと好きでいます。それでいつか彼女さんよりも上に行けたらいいかなって」

おこがましいかもしれないですけど

はにかんだ彼女は本当にいい子なんだと思う

「私が、北河さんを進ませて見せます」

だから好きでいさせてください

「……」

まっずぐに見つめてくる彼女の瞳を黙って見返すことしかできない

何度か口を開こうとするけれど、言葉が出てこない

忘れていいよ

そう誰かの声が聞こえた気がした

「覚悟、しておいてくださいね」

満面の笑みを見せる奈々絵にいっそうすがすがしさを感じて、北河は瞳を細めた



「結衣」

そっと口にした名は静まり返った部屋に消えていく

応える声は、ない

眠り続ける彼女の頬をそっと撫でる

そうするとくすぐったそうに、でも嬉しそうに笑う姿が目に焼き付いている

きっと結衣は、今の北河の状況を怒るだろう

さっさと自分なんて切り捨てて、新しい恋に向かえと

女の子なんて私だけじゃないのよ?

そう言われるような気がする
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