ユキ色
むすーっと不満顔になったあたしの髪をユキはくしゃりとかき混ぜた。
肩にかからないくらいの髪と眉より上の短い前髪が一緒くたにぐしゃぐしゃだ。
「本当にごめんね」
困ったように眉を下げて、頭に触れるユキはあたしがこれに弱いって知っているんじゃないかな。
「……ねぇ」
用事ってなに?
それは禁句。
訊いたらきっと、全部が終わってしまうんだ。
「なに?」
首を傾げたユキの表情には小さな焦り。
「……んーん、なんでもない。
じゃあまた明日ね」
ホッと息を吐いたユキのわかりやすさ。
急いで帰って行く後ろ姿を見つめる。
だめだよ、もっとちゃんと隠してくれなきゃ。
「あれ? 結晶、旦那帰っちゃったの?」
「浮気か浮気ー!」
「じゃあ結晶はうちらと浮気だな。
お茶しよーっ」
うん、と笑って応える。
あたしは随分と感情を隠すことが上手くなった。
一週間に最低一回、たまに土日も。
そんなペースでユキは浮気をしているんだ。
友だちみんなは知らない。
だからこそ、簡単に冗談で『浮気』と言えて、あたしの嘘笑いに気づかない。