ユキ色
「黒沢、化学の教科書ある?」
ピクリと声に反応する。
顔を上げてみると、ひょっこり現れたユキと目が合った。
「え、あ、化学だよね。
あるー、ちょっと待って」
扉のところから寄ってきたユキがひょいと雑誌を持ち上げた。
「あ」
うっわ、あたしなにしてるの。
本人に見られるものじゃないじゃん。
こういう裏は見せちゃだめじゃん。
「そっか、もうすぐ……。くれる?」
「~~っあげるよ」
じゃあ楽しみにしてる、と言ったユキの笑顔は自然で。
伺うようにじーっと見つめてからようやく安心して笑みを返した。
「でもね、今年は平日じゃないんだって。
日曜日だけど、会える……?」
あごに手を当てて、視線は上へ。
思案するように軽く唸る彼をちらちらと見上げる。
ああ、心臓が痛い。
「……うん、いいよ。デートしよっか」
にっこり。
笑ったユキにはバレないように吐息を呑みこんでから、小さく吐き出した。
あたしは、泣きそうに笑った。