城跡に咲く花〜使用人×王女〜
「…ルシア、……どうか無事で…」

ユリアはそっと妹姫を抱きしめる。


「みなも…無事に生き延びてくれ……」

少しだけ潤んでいるように見える翡翠色の瞳を見返して、忠臣たちは深く頭を垂れた。


扉を閉める直前、最後に振り返った彼にユリアはそっと呟いた。

「さよならグレン……」

上手く笑えていたのかはわからない。


重い音をたてて、扉はとうとう閉ざされた。

誰にもその場に残ることをゆるさず、ユリアはたったひとり崩れる城内に留まった。


ぺたりと床に座り込む。

扉を閉めてしまうと、心にぽっかりと穴が空いたような気持ちになった。

隠し通路はもう開けられない。

彼らにはもう二度とあえない。

誰もいなくなった暗い部屋で彼女は静かに瞳を閉じる。
< 10 / 36 >

この作品をシェア

pagetop