城跡に咲く花〜使用人×王女〜
「…はは、貧血です…。ちょっと当たっちゃって……」

「止血はしたのでだいじょうぶですよ」と言われて、ユリアは漸く安堵の息を吐き出した。

心臓が痛いほどに鳴っている。

震える両手を握りしめた。


「……どうして…っ」

自分の喉から零れる声もどうしようもなく震えていた。

ユリアはやっとの思いで言葉を紡ぐ。

「…逃げろと言っただろう……っ」


あの抜け道には森へ抜る出口ひとつしかないはずだった。

攻め込んできた反乱軍と逃げ惑う使用人たちで滅茶苦茶になった城内は、火が拡がり始めてからは更に混乱が増しているだろう。

秩序のない荒れた城の中を、城門を通ってもう一度ここまで戻ってくるのは容易なことではない。


「……愚か者が…」

騎士でない彼に剣の心得はない。

危険をかえりみず怪我まで負って。

「どうして戻ってきた…っ」
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