城跡に咲く花〜使用人×王女〜
ああ、それでも…。

それでも、他でもない彼女がゆるしてくれるなら―――


やがて彼も震える手を伸ばし、漸くそっと指先が触れ合う。

初めて重なり合ったぬくもりは、泣きたくなるほどあたたかかった。


「…ユリア…さま……」

グレンは夢の中にいる心地で彼女の名を呼ぶ。


思えばただの一度も、手を繋いだことさえなかった。

王女と使用人。

決して越えることのできない壁に阻まれて。

触れることはもちろん、言葉を交わすことさえも、本来ならばゆるされるはずがなかった。

どれだけ想ったとしても報われるはずがなかった。

そんなことを願うことすらおこがましい。

彼女は誰より近くにいるのに、それと同じだけ遠い存在だった。
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