城跡に咲く花〜使用人×王女〜
ああ、告げることさえ叶うはずがないと思っていたのに。

彼女も同じ気持ちだと言ってくれる。

それだけで、もうなにもいらないとグレンは思った。


そっと抱き寄せた彼女は想像よりもずっと華奢だった。


「…こんなことになるのなら、あなたをさらってしまえばよかった」

耳元でグレンが呟いた言葉に彼女は瞳を見張って、やがて苦笑を零した。

「ばか」


そのとき。

ドォンと音がして、どこかそう遠くないところで壁が崩れ落ちたのがわかった。

王の間も時間の問題だ。

「……移動しましょう、姫さま」

「―――…」


ああ、グレンはもう逃げようとは言わない。

誰よりもなによりも、彼の幸せを願っていたはずなのに…。
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