城跡に咲く花〜使用人×王女〜
視界が涙で揺れた。

涙目でユリアは微笑んだ。


「…グレン、……」

ずっとずっと彼だけが大切で、ずっとずっとそばにいたかった。

笑い合った日々があったから、きっとここまで生きてこれた。

ゆるされるはずのない身分で、それでも。

「…わたしもお前を愛してる……」


「……光栄です、ユリアさま」

抱き寄せられて、ユリアは瞳を閉じる。

髪を梳く指先が、額に触れる唇が、どこまでも優しい。

このひとに出逢えてよかったと思った。


朽ちかけた城の奥で、ふたりは初めての口づけを交わした。
< 29 / 36 >

この作品をシェア

pagetop